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アジア・マンスリー 2022年10月号

不足解消と並行して調整色が強まる半導体市場

2022年09月29日 野木森稔


半導体不足の問題は、積極的な供給能力の拡大などを背景に解消が進んでいる。しかし、パソコンやスマホの循環的な需要減少で在庫が積み上がっており、韓国や台湾をはじめアジアの景気を下押ししている。

■供給・需要両面で半導体不足解消に向けた動き
世界の製造業を混乱させてきた半導体不足の問題が解消する方向にある。半導体のリードタイム(発注から納品までにかかる時間)は2022年8月に26.8週と小幅ながら3カ月連続で低下している。また、グローバル・エレクトロニクスPMI(購買担当者景気指数)のサプライヤー納期指数(50未満は納期長期化を示唆)は8月に40まで上昇し、納期は徐々に短期化している。

半導体不足の緩和には、供給と需要の両面の要因が影響している。供給面では、半導体の製造企業が積極的に生産能力の増強を進めたことが大きい。世界の半導体製造装置の売上高は2020年ごろから急速に拡大し、2022年4~6月期も264.3億ドルと高水準を維持した。

経済安全保障の観点から、各国で半導体サプライチェーン強靭化の重要性が高まったことも追い風となっている。元来、半導体製造装置の売上高の7割以上は韓国、台湾、中国であるが、2022年に入ってからは、これらの地域での売上高が伸び悩んでいる。その一方で、米国などその他の地域での売上高が速いペースで拡大しており、半導体の生産拠点を分散させる動きがみられている。米国政府は8月に成立した「CHIPSおよび科学」法に基づく予算527億ドルで半導体企業による設備投資を支援する。日本政府も熊本での台湾TSMCによる半導体工場の建設に最大4,760億円の補助金を拠出するなど、外資誘致をてこに半導体の生産能力増強を目指している。このような供給能力を拡大させる動きは当面続くと予想され、半導体不足の解消に作用すると考えられる。

需要面では、パソコンやスマートフォンなどハイテク製品の需要が、循環的な減少局面に入っている。この背景として、コロナ禍で加速したデジタル化の動きが一服していることが挙げられる。インフレ局面ではぜいたく品(奢侈品)への需要が減退する傾向にあることも、パソコンやスマートフォンの需要を下押しする要因となっている。

これまでの生産能力の増強は製品間でばらつきがあり、先端半導体の生産が優先されてきた。実際、パソコン向けやスマートフォン向け半導体の供給は円滑であったが、自動車向けや家電向けの半導体は深刻な不足に陥った。自動車向けや家電向けの半導体にはいわゆるレガシー(旧型)半導体が多い。パソコンやスマートフォン向けの先端半導体のような高い利益が見込めないことが、レガシー半導体の生産能力を増強する誘因に乏しかった背景にある。特に、自動車向け半導体の供給不足は深刻であり、本年8月の日本の新車販売台数は前年同月比▲9.2%と低迷が続き、新車購入後も納車までになお数カ月かかる状況である。

需要に対応した生産の増強は、当面、パソコンやスマートフォン向けは積極化できず、利益率が低下するとしても自動車や家電向けに集中するとみられる。今後、こうした動きによって供給の偏りが是正され、半導体全般の不足解消をさらに進めることが予想される。それによりインフレ圧力の緩和など世界経済への好影響が期待できよう。

■台湾・韓国では半導体生産の調整局面入り
もっとも、半導体需要全体の6割以上を占めるパソコン向けやスマートフォン向けの需要減少で半導体産業の生産調整は避けられない情勢にある。実際、7月の世界半導体売上高は前年同月比▲1.8%(6月同+6.2%)と、2年8カ月振りにマイナスに転じている。WSTS(世界半導体市場統計)と米調査会社Gartnerはともに半導体売上高の伸びが2022年、2023年に2021年の同+26.2%から減速するとの見通しを示した。

特に、先端半導体やメモリー半導体を主に製造する台湾、韓国では、パソコンやスマートフォン向け半導体の生産増加がこれまで景気のけん引役であっただけに、最近の需要減が景気を下押ししている。台湾では、7月の半導体などの電子部品の出荷が前年同月比▲1.3%となったのに対して在庫が同+57.9%、韓国では、出荷が同▲22.7%に対して在庫が同+80.0%と、ともに在庫が速いペースで積み上がっている。台湾と韓国で生産されている半導体を、自動車や家電向けへのものに生産体制を切り替えるには一定の時間を要する。当面、台湾と韓国では、半導体産業の在庫調整局面が続くと見込まれる。

さらに、高インフレなどを背景に世界全体の消費市場全体が急速に冷え込むことになれば、自動車向けや家電向けを含めて、半導体市場が全般的な調整局面に入ることになる。その場合、台湾、韓国だけの局所的な生産調整にとどまらず、半導体のサプライチェーンが集中するアジア景気全体が大きく悪化するリスクに注意する必要がある。
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