コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2020年1月号

5G主導で半導体市場に持ち直しの動き

2019年12月26日 野木森稔


アジアに主な製造拠点が集まる半導体市場に底入れの動きが見られる。しかし、5G需要に過大な期待が生まれている可能性があり、やや長い目では、需給バランスが崩れるリスクに注意する必要がある。

株価が示唆する半導体市場の回復
 世界半導体出荷額(ドルベース)は10月に前年同月比▲9.6%と9月の▲14.4%から減少幅が縮小した。2019年前半にかけてのIT関連需要低迷は台湾や韓国を中心にアジア景気下押しの一因となっていたが、半導体市場には底入れの動きが見られる。加えて、半導体市場動向を見るうえで代表的な指標とされるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も力強く上昇し、半導体市場の先行きに強気の見方が出てきている。株価動向は期待や個別企業の事情などにも左右されるため慎重に見る必要はあるが、過去の相関の高さを見る限り、同指数の上昇は今後の半導体出荷の持ち直しを示唆するものと判断される。

もっとも、製品ごとに分けてみると、半導体需要は回復ペースに違いが出ている。特にNANDフラッシュやDRAMなどのメモリの需要はまだ弱い。これは2017年ごろブームとなって急増したデータセンター(サーバーや通信機器を設置した施設)向けの投資が足元で低迷していることが大きい。実際、情報記録のための装置として同投資に重要な半導体メモリの厳しい生産調整は続いている。半導体輸出に占めるメモリのシェアが高い韓国(72%)の11月電子部品輸出(名目ドルベース)は前年同月比▲30.8%と大幅な減少が続く。なお、メモリは半導体全体の売上の30%以上を占めるため、同製品の不振は出荷額の持ち直しを阻む大きな要因になっている。フィラデルフィア半導体株指数と実際の半導体出荷額の乖離が足元拡大しているのも、メモリ市場の1位と2位のシェアを持つ韓国企業2社が同指数には含まれていないことが影響している。

それに対しメモリ以外の集積回路など(非メモリ)は、深刻な生産調整がなかったことに加え、5G向け基地局投資やその対応スマホ販売開始によって需要が押し上げられ、市場全体の回復に寄与している。実際、半導体輸出に占める非メモリのシェアが89%の台湾の電子部品輸出(名目ドルベース)は2019年11月に前年同月比10.1%と好調に推移している。

5G対応のため設備投資が積極化
5G向けの需要の高まりは、半導体メーカーの積極的な設備投資にも現れている。台湾の半導体ファウンドリ(受託生産)世界最大手企業が年内の設備投資額を引き上げたこともあって、10月の製造装置販売高(ドル建て)は北米製が前年同月比+3.9%とプラスに転じ、日本製も同▲5.9%とマイナス幅を大きく縮小させている。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)は2019年7月に世界半導体製造装置販売高について、2019年は前年比▲18.4%、2020年は同+11.6%という予測を公表している。

なお、フィラデルフィア半導体株指数にも製造装置企業が含まれており、それらの株価は年初来50%超の伸びとなったことで、全体の伸びの急上昇に大きく貢献している。

過大設備投資という懸念
しかし、こうした設備投資が先行する形を見ると、5G関連半導体需要に過大な期待が生まれている可能性が心配される。本来5Gの特徴である「高速・大容量」「低遅延」「多数端末との接続」が重視されるのは、自動運転や遠隔医療・介護などである。これらの5G技術を十分に生かすイノベーティブなサービスが本格的にスタートするのはまだ時間が必要である。基地局など5G普及に向けたインフラ整備は進むものの、現時点において、スマホ以外に実用に供される5G対応製品はほとんど具体化していない。その5G対応スマホについても、2020年に出荷増が見込まれるが、オーバースペックによる割高感などを背景に需要が下振れるリスクも考えられる。中期的な拡大は見込まれるものの、株式市場が期待するほど早期には立ち上がらない可能性がある。

フィラデルフィア半導体株指数が示すように、足元軟調なメモリも含め、5G需要主導の形で半導体市場はこれから回復に向かうと見込まれる。しかし、5G関連の半導体需要の拡大見通しが勇み足となっている懸念が残る。半導体需要の回復は2020年に北アジアを中心に景気の押し上げ要因になると見込まれるが、過大な期待は禁物であり、やや長い目で見た場合、需給バランスが崩れ、アジア景気へのネガティブ要因に転嫁するリスクに注意する必要がある。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ