国連が掲げるSDGsを達成するうえでインドは極めて重要な役割を担っている。
SDGsにおけるインドの重要性
2015年9月、貧困の削減、教育の拡充、ジェンダーの平等など、17の分野における169項目について、2030年を目標達成年次とするSDGs (Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が国連サミットにおいて採択された。それから約4年が経過し、わが国でもSDGsの認知度は徐々に高まりつつある。企業も、2006年に国連が提唱したPRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)を反映した、ESG(Environment、Social、Governance、環境、社会、企業統治)とともに、SDGsの視点を事業計画に取り組むことに対して高い関心を寄せている。
SDGsの達成においては、人口、GDP、環境汚染物質排出量などで世界の大半を占める、G20が果たす役割が極めて大きい。ただし、各国の経済・社会状況を勘案すると、G20の中でもインドがとりわけ重要な役割を担っている。インドは13億人を上回る人口を抱え、早晩中国を追い抜き世界第一位の人口大国になる見通しである。その一方、経済面では、一人当たり名目GDPが約2,000ドルとG20の中で最も低く、貧困解消やインフラ整備など多くの課題を抱えている。SDGs達成を支援する国際機関が6月末に公表した、各国のSDGs達成状況を定量的に評価したレポートでも、インドのランキングは162ヵ国中115位と、G20の中で最も低く、多くの改善余地が残されていることが示された。同レポートで示された達成目標と現状のギャップに対するG20各国・地域の寄与率においても、多くの分野でインドの寄与率が高い。ちなみに、経済活動に伴う環境汚染物質の発生量の削減などを目標とする「生産・消費」と「気候変動」の分野では、目標と現状のギャップの大半はEU・中国・米国によるものであり、インドの寄与率は低い。ただし、これは現在のインドの一人当たり所得・消費水準の低さを反映したことによるものであり、環境配慮型の効率的な生産・消費体制が構築されているわけではない。今後、経済成長に伴い、インドの一人当たりの環境汚染物質の発生量は飛躍的に増加すると見込まれるため、こうした分野でもインドの取り組みが世界のSDGsの達成状況を大きく左右することになる。
一方、わが国のSDGs達成ランキングは世界15位であり、インドと比べた改善余地は小さい。そのため、わが国が世界レベルのSDGs達成に貢献していくうえでは、日本国内の状況を改善するだけでなく、国際協力や海外事業展開などを通じてインドを含む新興国各国にそのプラス効果を波及させていくという視点がより重要になる。
SDGs指数からみるインドのSDGs達成状況
各分野の達成状況を0~100の間の指数で評価した「SDGs指数」でインドのSDGsの達成状況をみると、「イノベーション」と「ジェンダー」の分野のスコアがとりわけ低い。イノベーション分野の評価が低い理由としては、イノベーション創出につながるR&D(研究開発費)のGDP比や人口対比でみた研究者数が限られるとともに、産業育成に必要不可欠な経済インフラの未整備などを指摘できる。また、ジェンダーの分野では、女性の就学年数の短さや労働参加率の低さなどが低評価の要因になっている。
相対的に評価が高い分野についても、評価手法や統計上の制約を理由に、インドが抱える課題が適切に捉えられていない可能性がある。例えば、「生産・消費」と「気候変動」の分野のSDGs指数は、各国の一人当たりの環境汚染物質の発生量を基準に指数が作成されている。インドは一人当たりの発生量は少ないものの、人口数の多さゆえに一国全体でみた発生量は大きく、大気汚染問題をはじめとした環境問題の解消が重要課題となっている。また、これらに次いで評価の高い「成長・雇用」についても、雇用創出の遅れはこれまでのモディ政権の最大の失敗として各方面から批判されている。年間1,000万人を上回るペースで生産年齢人口が増加したこともあり、過去5年間の平均実質GDP成長率が7%を上回るなかでも、失業が大きな社会問題となった。同分野のSDGs指数の作成には失業状況も勘案されているが、インドでは大規模な労働力調査が5年に1度しか実施されないため、ILO(国際労働機関)が独自に推計した失業率が利用されている。この失業率は過去5年間3%弱で安定的に推移しているが、現地の民間シンクタンクが独自に推計した足元の失業率は7%を上回るなど大きなかい離が存在しており、ILOの失業率は実態を反映していない可能性がある。
これらを踏まえると、インドはSDGs指数の低い分野に限らず、各分野で目標達成に向けた取り組みを強力に推進していく必要がある。わが国としては、ODA(政府開発援助)を通じたソフト・ハード両面のインフラ整備や、民間企業のインド進出などを通じて、インドの経済・社会の発展、ひいては世界レベルのSDGs達成に一段と積極的に関与していくことが期待される。モディ政権下のビジネス環境の改善などを受けて、過去5年間、わが国のインド進出企業数は着実に増加してきた。しかし、主な進出地域は、デリー、マハラシュトラ、ハリヤナなど、所得水準やSDGs指数が既に高い地域である。ウッタルプラデシュやビハールといった、インドの中でも所得水準が低くSDGs達成において今後重要な役割を果たす地域への進出は限られている。そのため、わが国企業がインドでの事業計画にSDGsの視点を組み込んでいく際には、これらの地域に対する波及効果を意識することが期待される。
関連リンク
- 《アジアマンスリー2019年9月号》
・アジアマンスリー全文(PDF:1052(KB)
・広がるサプライチェーン再編の動き
・SDGs(持続可能な開発目標)とインド