Business & Economic Review 2009年10月号
【特集 環境制約下での新しい経済・社会】
持続可能性に立脚した日本農業の再構築
2009年09月25日 創発戦略センター 副主任研究員 三輪泰史
要約
- 人口増加と摂食パターンの変化により、世界的な食料不足の危険性が指摘されている。フードセキュリティーの観点から国内の食料生産能力の確保が重視されているが、日本の食料自給率は約4割に過ぎず、先進国中でも最低レベルにある。
- 現在の世界の農業生産は、比較優位による国際分業を前提としているが、国際市場への供給量減少や価格高騰により、農産物の自由貿易は岐路にある。2050年には世界人口は現在の1.5倍近くになり、さらに経済成長に伴う食生活の変化は一人当たりの食料消費量を引き上げることになろう。一方で、新たな耕作適地の減少や自然保護の観点から農地の飛躍的な拡大は難しく、化石燃料等の資源価格の高騰も農業の持続性を危ういものとしている。
- 従来、アメリカのように、広大な農地で機械と資源を多用し、一戸当たりの収益性を追求した大規模農業が代表的な成功モデルとされてきた。持続的な農業の構築には、農業の効率性の概念を見直すことが必要だ。単純化すれば、大規模農業は農家一人当たりの収入、ヨーロッパは単位農地面積当たりの収穫量、アジアは収穫量当たりの資源・エネルギー投入量を重視した農業と整理できる。しかし、土地制約の顕在化と資源価格の高騰は、大規模農業の成功要因を覆す可能性がある。規模適正化と輪作により高い単収を誇るヨーロッパ農業や、資源循環や生態系を活かして環境に優しい農業を営むアジアの伝統農業の長所を再認識すべきである。
- 経済活動においては、環境保全や持続性といった当面の収益性に直結しない要素は軽視されがちである。農業の本質的な価値と短期的な収益性のギャップを埋めるという意味で、農業政策の重要性はかつてないほど高まっている。日本が効率的かつ持続的な農業を構築するためには、「中規模化による収益性向上」、「単収を軸とした生産効率の向上」、「資源循環の促進」の3点が重要と考える。日本農業の良さを活かすための資源循環の構築やそれにともなう農産物の付加価値向上は、国からの押し付けではなく、地域発生的であるべきだ。農家や事業者が、国が用意した様々な政策メニューから必要なものを取捨選択するという、地域の主体性が発揮できる政策が求められている。