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コラム「研究員のココロ」

2020年、あなたの会社は存在していますか?

2009年07月13日 三木優


 今年の3月に富士フイルムのCSR推進室の方にお話を伺う機会があった。環境分野への取り組みでは非常に先進的な当社を訪れるにあたって、有価証券報告書やCSRレポートを読んでいたところ、あることに気がついた。いつの間にか社名が富士「写真」フイルムではなく、富士フイルムHD(ホールディングス)になっていること、フィルムカメラ関連事業が縮小し、まったく別の事業が主になっていることなど、私の中にある富士「写真」フイルムのイメージとは完全に別の会社になっていたのである。
 よくよく考えてみれば、2000年ごろからデジタルカメラ(以下、デジカメ)が普及し始め、その結果、写真フィルムの需要は激減、写真を現像する機会も減少していることから、それが富士フイルムHDの事業の中心で有り続けるはずはないのである。ここで、他のフィルムメーカーも富士フイルムHDと同様に、市場の変化に対応できたのか、ふと気になったので調べてみたところ、驚くべき結果となった。結論からいえば、倒産あるいは売上・利益を大幅に減らしている状況であり、富士フイルムHDのように見事に逆境を切り抜けた大手企業はいなかったのである。
 市場の変化によって、その企業が取り扱っている商品が市場から退場を余儀なくされるケースは、写真フィルム以外にもたくさんあると思われる。しかし、このケースが示唆に富むのは、市場変化を適切に先読みし、それに上手く対応できた企業とできなかった企業の差が歴然としていることである。これは、今後、10年程度の時間軸で訪れる地球温暖化防止を理由とする市場変化を考えるにあたり、大いに参考になる。
 今回は、フィルム業界の市場環境を激変させた「デジカメ・ショック」の顛末を概観する。そして、次に様々な産業に市場変化をもたらす「地球温暖化防止」について、企業が「自分事」として考えるための視点を整理する。


1. ターニングポイントは2001年

 一般向けにデジカメが普及するきっかけになったのは、カシオが1995年に発売した「QV-10」といわれている。新しもの好きであった筆者は、QV-10で早速写真を撮り、その画質と便利さに非常に驚いたことを覚えている。その後、各社より様々な機種が発売され、1999年頃には、行楽地で自分の他にもデジカメを持っている人を見かけるようになっていた。しかし、依然としてフィルムカメラが主流であり、レンズ付きフィルムで写真を撮っている人も多かった。デジカメが本格的に普及し始めたのは2001年であり、この年に初めてフィルムカメラの出荷台数を上回っている。

図表:主要フィルムメーカーの営業利益とフィルム・カメラ出荷数

注1:富士フイルムHD営業利益は年度、イーストマン・コダック営業利益および出荷本数・台数は暦年
注2:イーストマン・コダックの営業利益については、税関長公示レートの年平均(財務省貿易統計)にて、ドルから円に換算した。


 その後、デジカメの出荷台数は、2003年から2005年にかけて一時的に伸びが止まるものの、2007年には年間1千万台以上の出荷となっている。一方で、フィルムカメラの出荷台数は、2000年には350万台程度の出荷台数であったが、7年後には約1/70の5万4千台まで激減し、ストックで見てもデジカメが大半を占めるようになったと考えられる。この状況に合わせて、ロールフィルム出荷本数も減少しており、2007年には2000年比81%減の8,670万本となっている。
 このように、フィルムカメラに関連する需要(写真フィルム・現像など)がわずか7年間で急速に消えていく中、世界シェア1位のコダックと2位の富士フイルムHDの営業利益は、対照的な動きを示している。2000年の時点では、コダックの営業利益は富士フイルムを上回っていたものの、2003年からは明らかに減少傾向を示し始め、2008年には2000年比98.5%減の34億4千万円になっている。一方、富士フイルムは2005年と2008年に大きく落ち込んでいるものの、デジカメが大幅に普及した2007年に、過去8年間において最高の営業利益を上げるなど、コダックの凋落傾向とは明らかに異なっている。


2. 何故、富士フイルムHDは市場変化に対応できたのか

 富士フイルムHDの営業利益をセグメント別に示したのが下のグラフである。

図表:富士フイルムHDのセグメント別営業利益の推移


 富士フイルムHDの事業は3つのセグメントに分類されており、フィルムカメラ関連のイメージングソリューション、医療関係の画像処理・FPD(フラットパネルディスプレイ)向けの材料などを扱うインフォメーションソリューション、2001年度から連結子会社化になった富士ゼロックスの事業であるコピー・プリンター関連のドキュメントソリューションとなっている。2004年度以降、イメージングソリューションは、営業赤字が続いているが、それを他のセグメントの営業利益でカバーする収益構造となっている。
 以上のように、富士フイルムHDが営業利益を確保できているのは、一言でいってしまえば「フィルムカメラ関連以外の収益源をきちんと準備できていたから」である。では、単にフィルムカメラ関連以外の事業を大きくすれば良かったのだろうか。例えば、富士フイルムHDでは、デジカメを取り扱っている。一時は、独自に開発したスーパーCCDハニカムを搭載するなどしてデジカメ市場で一定のシェアを獲得していた。しかし近年では市場が成熟するにつれて、カメラメーカー・家電メーカーとの競争環境はより一層厳しいものとなっており、売上・利益への貢献は限定的になっている。
 富士フイルムHDを支える事業構造には、二つのキーワードがある。
 一つ目は「本業の横展開」である。富士フイルムHDは、社名にもあるようにフィルムの専門家である。「フィルム」と呼ばれるものは写真以外にも様々な分野で使われており、高機能で安定した品質の「フィルム」を開発・製造できるノウハウ・技術は、市場を作る事が出来れば、大きな付加価値を生み出す。その典型的な例がFPD向けのフィルムであり、液晶ディスプレイの需要の伸びに合わせて、当社の利益を大きく伸ばすことに貢献している。
 二つ目は「M&A」である。ここでは富士ゼロックスを念頭に置いているので、正確にはM&Aではない。しかし、2001年に合弁相手から株式を取得し、富士ゼロックスを連結子会社にしたことは、イメージングソリューションが縮小していく中で、自社の事業と比較的親和性の高いドキュメントソリューションを組み込み、収益構造を変革しようとの意図があったと考えられる。結果として、富士ゼロックスのドキュメントソリューション事業は、富士フイルムHDの営業利益を下支えしており、連結子会社にしたことは賢明な判断であったといえる。


3. 次は、地球温暖化防止による市場変化が訪れる

 フィルムカメラ関連事業を崩壊させたデジカメは、アナログからデジタルへという流れの中で生み出された技術革新の産物である。まったく新しい技術・製品が世の中に出てくる流れ・ストーリーはいくつもあるが、現状で確実に見えている流れがある。それは地球温暖化防止を理由とする、省CO2技術の普及である。
 地球温暖化を防止するためには、これまでの技術・製品では対応できないため、太陽光発電や電気自動車などの新しい技術・製品が必要となる。これらが普及することは、それまであった技術・製品が代替されることを意味している。また、そもそも全く別のバリューチェーンが形成されてしまうため、従来の製品を前提としていたサービスも不要になる。
 例えば、最近、話題となっている電気自動車やプラグインハイブリッド自動車(PHV)は、電気をエネルギー源としてバッテリーとモーターで走行する。そのため、電気自動車・PHVの普及によって自動車関連産業は以下のような変化に直面する。

  • エンジン・変速器に関連する部品(プラグ・ベルト・ガスケットなど)の点数が減少あるいは不要になる。

  • 電気自動車では、ガソリン・軽油は不要。PHVでは、燃費が大幅に向上することにより、消費量が減少する。したがってガソリン・軽油の市場規模はゆっくりと縮小していく。

 地球温暖化防止を背景とした市場変化とそれに起因する自社の事業への影響を正しく評価し、適切な対応を検討することが「自分事」と考えるための最初の一歩である。検討においては、富士フイルムHDのケースからも明らかなように、単に市場変化リスクを認識するだけでなく、自社の差別化要因や業界内外の成長領域の探索などを通じて、それにどのように対処するのか、綿密なプランを作り込み・実行することが求められている。コダックも何も手を打たないまま、営業利益が98.5%減になった訳ではない。ただ打った手が間違っていただけなのである。2020年、あなたの会社は存在していますか?
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