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【RCM経営入門 アフターJSOXシリーズ】(第6回) RCMでBSC(バランスト・スコア・カード)経営を強化

2009年06月29日 下野雄介


1.BSCはなぜうまくいかないのか?

 近年の経営環境の複雑化により、企業にとって、ビジョン・戦略の立案から現場での施策実行に至る整合性を確保することが困難となっている。こうした問題の解決を目的として開発された手法がBSC(バランスト・スコア・カード)である。BSCの特徴は下記の2点である。

  • 全体目標を達成する為の戦略を、「財務」、「顧客」、「業務プロセス」、「学習と成長」という4つの視点でブレイクダウンし、戦略を現場でのアクションへ変換する。

  • 4つの視点に業績管理指標(KPI:key performance index)を設定することで、戦略によって達成したい目標・実行施策を具体化する。

 つまり、BSCの導入により、全体目標に対する首尾一貫した戦略の立案、現場のアクションへの落としこみによる「立案した戦略シナリオの実現」が期待できる。
 しかし、実際の導入・運用例を見ると、期待した効果が出ないケースも少なくない。筆者はこの原因について、以下の2点を考えている。

 a.組織の問題
 b.運用の問題

 本稿では、これらの問題について考察するとともに、特にb.については、RCMの概念を活用する方策について述べる。

2.組織の問題~組織形態からBSCの適用を再考せよ~

 企業がBSCによって、戦略シナリオの実現という効果を享受するためには、戦略立案から実行施策決定までの時間をできるだけ短縮することが望ましい。なぜなら競争の激化等で、戦略そのものが短命化しているからである。戦略立案から実行施策決定までの時間は、企業組織内での調整負荷に大きく影響される。そして、この調整負荷は、企業が採用している組織形態に左右される。
 ここでは組織形態を指示命令系統の違いに注目して分類した。具体的にはアメリカンフットボールチームのように、責任権限で定められる役割分担が明確で、組織の上位階層から下位階層へと指示命令が伝達できる指示命令系統がヒエラルキー型の組織と、サッカーのチームのように状況に応じて役割分担が柔軟に変更されるような指示命令系統が変化することを想定したネットワーク型組織に分けて考察する。

 ヒエラルキー型組織では、戦略立案から実行施策決定までが上意下達で展開されるため、将来の展望において不確実性が低く、変化が少ないという条件のもとでは、戦略の展開スピードは速くなる。これはヒエラルキー型組織においては、戦略立案及びその実行責任の範囲が明確であるためである。つまり責任者が守備範囲内で戦略立案と実行施策を決定し、下の階層に下ろす形で、シンプルに展開されるのである。BSCは戦略から現場での実行に至る整合性を確保することを目的としているので、ヒエラルキー型組織では利用しやすいコンセプトであろう。
 逆に将来の展望において不確実性が高く、予想通り進まないことが想定される場合、ネットワーク型組織に代表されるような指示命令系統や権限と責任が状況によって変化する組織のほうがうまく対応することができる。一方、ネットワーク型組織においては、全体戦略と実行施策をどう結び付けていくかは各現場責任者に委ねられることになり、全体の戦略に対しての実行責任が、ともすれば不明確になりやすい。したがってネットワーク型組織でBSCを活用する場合、各現場の責任者に対して、戦略の意味を十分に理解させることが重要であり、ここからスタートせざるを得ない。つまり全体の戦略を構築する時間に加え、各現場責任者が、戦略と自部門業務との関係を理解する時間が必要となるのである。この場合、ネットワーク型組織はヒエラルキー型組織に比べて、戦略立案から実行までに時間を要する可能性が大きい。

 組織形態は、環境変化に適応するように形成されるといわれている。まず、組織形態の前提となっている環境とはどのようなものなのかを整理すると同時に、BSCの特徴である戦略から実行施策へと繋がる精緻なシナリオが自社にとって、今本当に必要かどうかについての検討が必要である。自社を取り巻く環境、組織形態、BSC運用上の調整事項、調整負荷等を比較・検討することで、BSCの適否を見極めなければならない。

3.運用の問題~RCMでBSCを活性化せよ~

 BSCにおいては、全体戦略から実行施策に至るまでの精緻な作り込みが必要となる。そのため方針管理などに比べ、戦略をどう施策に展開するか、どう実現するかについて、思い込みなどが入る余地が大きい。これにより本来解決すべき問題が見落とされ、放置される可能性がある。その結果、戦略は実現されない恐れがある。

 表1は、ある受注生産型メーカーにおけるBSCの展開例である。ここでは、生産性向上という財務視点での戦略を、業務プロセス視点での設計効率向上という現場レベルでの戦略に落とし、それを既存の設計図面DBの積極活用という部門実行施策に落としている。

表1:BSCによる部門展開(一部 例)

 
 ここでは既存DBの活用という戦略方針に、表中の「図面の登録」と「活用の徹底」という2つの施策が対応している。しかし果たしてこれだけで「十分」かどうかは定かではない。これは表1において、戦略と実行施策の間にある繋がりが明確になっていないからである。戦略に対する実行施策の「十分さ」を保証する仕組みがない限り、見落としが起きる可能性がある。また運用を重ねることでマンネリ化し、思い込みの余地が拡大し、さらに見落としのリスクが増大することも考えられる。

 筆者はこの「十分さ」を確保するにあたって、「リスクと統制のカップリング」というRCMの概念が活用できると考えている。戦略と実行施策間での具体的な活用イメージは、例えば表2の通りである。

表2:RCMの概念を活用したBSC部門展開(一部 例)


 リスクと統制の概念を活用することで、戦略方針の実現を阻害する「A群製品で新規設計の必要な製品の受注が増加する」というリスクが認識され、それに対して「営業部門が既存図面を積極的に活用する」という統制、つまり実行施策を新たに認識することができた。

 戦略から実行施策への展開にあたり、「戦略実現を阻害するリスク」を明確にすることで、戦略実現を阻害する要因の網羅的な識別が可能になる。そして同時に、このリスクに対する統制という観点で実行施策を立案することにより、戦略に対する実行施策の「十分性」が確保される。
 
 このようにRCMの概念を導入することにより、BSCを戦略実現に向けた経営管理手法として、より強固なものとすることが可能となるのである。


参考文献:キャプランとノートンの戦略バランスト・スコア・カード(ロバート・S・キャプラン デビット・P・ノートン著 櫻井通晴 監訳)


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