クローズアップテーマ 新型インフルエンザと地球温暖化 2009年05月28日 佐々木努 現在世界で流行している新型インフルエンザの報道を見聞きするたびに、仕事柄、地球温暖化問題とリンクさせて考えてしまう。本コラムでは、新型インフルエンザと地球温暖化を社会や人々の行動という面から両者の関連性を考えてみたい。 現在までの新型インフルエンザに関する社会動向をいくつか抽出してみると、次のようになる。・「フェーズ4からフェーズ5に引き上げ」などWHOの判断が頻繁に報道された。・当初は水際対策であったため海外渡航者のみが影響を実感し、国民には「他人事」感すらあった。・国内のヒト-ヒト感染が報じられると大きな騒ぎになり、学校閉鎖や出張の禁止、マスクの価格高騰など日常生活に影響を及ぼした。・糖尿病や喘息などの基礎疾患がある方や妊婦などは重症化しやすいと報道されている。 これを地球温暖化問題に置き換えるとこうなる。・「地球温暖化は疑う余地がない」などIPCCの判断が数多く報道された。・当初は海面上昇の影響を受ける低海抜国のツバルなどの問題と思われていた。・国内でも洪水被害など地球温暖化の影響が顕在化し始めると、日常生活へ影響や人々の行動に変化が生じた。・それでも結局大きな影響を被るのは貧しい国や貧しい人々である。 もちろん、今回の新型インフルエンザと地球温暖化とを結びつけるのは科学的には不適切である。地球温暖化は、新型インフルエンザの感染のように、その影響がすぐに顕在化するものでもない。しかし、今回の一連の動きを注視し、想像を膨らませ、地球温暖化への対応に備えるために活用することはできる。 ワクチンの開発やマスクの備蓄、医療機関の受入態勢の準備、感染拡大後の政府・企業・市民それぞれの対応など、事前対応、事後対応の両面への備えが重要であることは明らかだ。気候変動の分野でいえば、「緩和」と「適応」の両面の対策が必要、ということになる。 事後の対応というのも、「事前に」備えておかなければ適切な対応はできない。現在国内では、2020年に向けた中期目標の検討など「緩和」への注目が集まっている。そのこと自体は良いことだ。一方で、地球温暖化問題における事後の対応である「適応」に関しても、そろそろ注目をしてみてはどうだろうか。