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コラム「研究員のココロ」

仕組みが上滑りする訳

2006年11月13日 芦田 弘


1.はじめに

 最近、経営コンサルティングの引き合い場面で「もう仕組みの話しは結構です。」というクライアントの声を聞くことがあります。そして「それより、確実に成果が出る方法を知りたいのです。」との率直な要望が出されます。ここで言う「仕組み」とは「○○管理システム」と呼ばれるような様々な経営管理手法や組織運営上の各種ルール・制度等のことです。場合によっては、話題になっている新経営手法と称するものも、この中に含めて語られることがあります。
 会社組織において経営管理を行うためには、何らかの仕組み(手段)が必要であることについては、誰も異論はないはずです。にもかかわらず、こうした声が出てくる背景には、(1)「仕組み」に関する知識は間に合っている(2)色々試したが、うまくいったためしがない(3)外部からの経営改善提案の多くが「仕組み化・システム化」に偏っている等があると考えられます。(1)については、書店に足を運べば、所狭しと多くの関連専門書・実務書が並んでおり、インターネットからも豊富な関連情報が簡単に収集できる時代だからでしょう。(2)については、経営革新の名の下に、毎年のように仕組みの再構築や新規導入を図りながらも、空回りを繰り返している企業が多々あるからです。(3)については、提案側は経営課題解決の手段として「仕組み化・システム化」を提案します。これは決して間違いではないのですが、提案を受けた側からみれば、またかという印象を持つのでしょう。
 そこで、今回はこの「仕組み導入時の留意点」について考えてみました。

2.目的と手段と人

 仕組み化がうまくいかない(仕組みが期待通りに機能しない)原因を考えるための着眼点として「目的」「手段」「人」の3点が挙げられます。「仕組み」は手段なので、必ず目的が存在するはずです。したがって、まずは目的に対して最適な手段であるのかが問われなくてはなりません。目的に対して過剰な「仕組み」は無駄が多く、一方、機能不足の「仕組み」では目的達成は不可能です。これらは「仕組み(手段)」そのものに問題がある場合です。さらに、そもそもの目的がはっきりしていない、あるいは目的が間違っている場合も時々あります。例えば、経営戦略そのものが曖昧なまま、仕組みだけを一所懸命に精緻化している場合が、これに当てはまります。
 さて、残されたもうひとつの着眼点は「人(人間系)」についてです。仮に目的と手段(仕組み)が正しくセットされたとしても、それを実行・運用するのは「人(人間系)」です。どんなにすばらしい「仕組み」でも、当事者が聞く耳を持たずそっぽを向いていたり、本音はその仕組み導入に反対でありながら賛成のフリをしていたり、理解力不足から間違った運用をしていたら、うまく動くはずがありません。当たり前の話しだと思われるかもしれませんが、「仕組み」が期待通りに動かない大きな理由のひとつは、それを動かす「人(人間系)」に対する配慮・働きかけの不足にあるというのが、これまでのコンサルティング経験から得られた私の仮説です。

3.意欲と能力と持続力

 「仕組み」と「人(人間系)」の関係に関する問題を表す時に、よく使われる表現が「仏つくって魂いれず」です。どうすれば仏に魂を入れて、本物の仏づくり、すなわち有効に動く仕組みづくりができるのでしょうか。
 これは、なかなかの難問ですが、人に関する「意欲」「能力」「持続力」の3つのキーワードに解決のヒントがあると考えます。
 まず、人が自発的に行動を起こす時の原動力は「意欲」です。そして、仕組み(手段)を使いこなす人には、それ相応の「能力(スキル)」が要求されます。また、仕組みというものは、何回も繰り返し使われ、使い込んでいくうちに手段として磨きがかかり、じわじわと成果が出始めたら、それを継続発展させていくためのものです。したがって、すぐに成果が出ないからとか、面倒くさいからと言って、途中で投げ出したくなるのが人情かもしれませんが、そこで踏ん張れる「持続力」が肝心なのです。

(1)意 欲
 当事者(運用者)に、仕組みを動かす意欲すなわち「やる気」「本気」が生まれなければ、仕組みは上滑りして形骸化したあげく、社内で批判の対象になるのが落ちです。大分昔のことですが「組織の活性化」という言葉が、はやっていた頃の話しです。あるコンサルタントが、組織内でやる気満々で活性化している人材は、たった一人しかいないと言いました。それは、社長であり、自分が思った通り、やりたい事ができる唯一の人材だから常に活性化しているとの説明でした。今となっては少々極端な解釈ですが、「やる気」の源がどこから生まれるかの本質を示唆しています。「自律性の確保」すなわち、自分で考え、自分で行動することが認められているということです。ただし、会社組織である以上、各人が自律的に動ける一方で、全体との調和も不可欠であり、そのためには2つの条件が必要になると考えられます。それは、役割分担の事前確認とプロセス・成果等に対する公平な人事評価(特に褒めることが重要)です。したがって「自律」「役割」「公平」「褒める」は社員の働く幸福感・意欲(人が自発的に行動を起こす時の原動力)につながるキーワードであり、これらに留意することが欠かせません。

(2)能 力
 意欲があっても、能力が不足していては仕組みを動かせません。ところが、この点は意外に見過ごされているような気がします。やらせる側の立場に立つと、いきなり「なぜ、やらないのか」という発想になりがちですが「やらないのではなく、できない」場合があるのではないでしょうか。スポーツ競技でも、初心者が体の動かし方やゲームのルールを理解しただけで、いきなり試合に出場して活躍できるはずがありません。ものごとに対する理解度(対応能力)の水準には、内容を正しく理解していない→内容は理解している→理解した内容を他人に説明できる→理解した内容を実際に自分が実行できる等の段階があります。目には見えにくいかもしれませんが、経営の分野で仕組みを動かす時にも同じような状況が起きているはずです。
 したがって、新しく導入する仕組みの特性にもよりますが、各当事者(各運用者)の対応能力(理解度)を客観的に見極めた上で、例えばスポーツコーチのような、それぞれのレベルに応じたきめ細かい指導アドバイス(研修・ミーティング・コーチング等)を行う配慮が求められます。

(3)持続力
 「継続は力なり」という言葉は有名ですが、逆に言うと、何ごとも継続することは簡単ではないということです。そうした中で仕組みを持続させる鍵は、経営トップが握っていると思います。経営トップが自らの言葉で、仕組みの背景にある理念・戦略・方針、すなわち経営の意思を社員に繰り返し語り続けられるかによって、仕組みの持続力が決まってくると考えられるからです。こうして経営トップの指導理念が組織の末端にまで浸透しきった時、仏に魂が入ったと言えるのではないでしょうか。

4.おわりに

 経営管理の仕組みが期待通り機能しない大きな理由は、仕組みを動かす当事者(運用者)の意欲・能力・持続力に対する配慮・働きかけが不足しているからであると考えています。したがって、仕組みの設計も重要ですが、実行段階での運用が円滑に進むためには、人(人間系)に着眼した諸施策も併せて講じることが不可欠だと思いますが、いかがでしょうか。
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