コラム「研究員のココロ」
すべては組織風土の変革のために(6)~「社員意識調査」を活かすには!~
2007年08月13日 水間 啓介
1.意欲や能力を出し切らず、眠ったふりをしている社員の多さを嘆いていない?
経営者にお会いする際に最近話題に上るのは、“どうもうちの社員はおとなしくて元気がない。仕事になると意欲や能力を出し切ろうとしない。もっと能力があるはずなのだが、どうも眠ったふりをしているのではないかと思ったりする。”という内容である。この話で気になるのは、社員が意欲を出し能力を発揮できる環境すなわち組織風土を問わずに、社員のやる気を問題にしているのではないかということである。トヨタ自動車の張会長が成果主義人事制度についての意見を求められて、「社員が能力を発揮できる環境かどうか、社員がその仕事に合っているかどうか(適材適所)を問わないで、論じるのはどうであろうか。」といった趣旨のことを述べていた(テレビ東京「カンブリア宮殿」)。社員が成果を出したか否かの前に、社員がその仕事に合っているのか、他の仕事でなら能力を発揮できるのではないかとか、上司の社員への接し方に問題はないのかがまず問われるべきなのだろう。
“社員が眠ったふりをする”という言葉自体が気になる。半ば冗談で述べられているのが大半だと思うが、本音であるとすると、社員との間の信頼関係はどうなのかと心配になってしまう。勿論会社として社員が意欲を出し能力を発揮できる環境を整えた上で、眠ったふりをしている社員だとしたら、やはりその社員は問題児なのだろうが・・・。
まずは、社員が意欲を出し能力を発揮できる環境かどうかを問うことをお勧めしたい。
2.社員の不満をつぶすだけのモグラたたきをしていない?
最近ES(Employee Satisfaction)すなわち従業員満足度調査に多くの会社が取り組むようになってきた。その目的は、社員が仕事・職場・上司に対して満足しているか否か、要望があれば聞き出そうという趣旨で行われているようである。気になるのは、社員が満足であるとの回答をすれば安心して何もしないし、不満との回答があればその部分だけを、社員の不満をなくすために問題をつぶすという対応になっていないかということである。
(1)社員が本当に満足しているかを見極めたい。
本音で満足していると回答する社員がどの程度なのか、一方不満を抱えながら満足と回答している、建前と本音とが食い違っている社員がどの程度存在するのかの実態に目を向けることをお勧めしたい。調査の回答だけ見ても、こうした実態は見えてこない。
こうした事態が生じる大きな要因と考えられるのは調査方法である。「無記名式(匿名)」でありながら、所属部門や等級・年齢・勤続年数・性別などの詳細な属性情報を回答することを求めては、誰が回答したのかを特定できることを社員が察知し、本音では回答しなくなる。場合によっては、そのような調査をする会社に対して信頼感を失ってしまいかねない。
(2)社員が回答した不満の箇所でなく、根本原因を見つけてつぶそう!
社員が不満だと勇気を持って回答してくれたことに敬意を払うことが望まれる。“こんなことに不満を持っているのか!”と怒鳴ってしまっては、社員との間に信頼関係がないことを自ら認めてしまうことになってしまう。“こんなこと”をES調査でしか述べられない組織風土となっていることが根本原因になっているのではないだろうか。 “こんなこと”の内容に囚われて判断しては見誤ってしまう。“こんなこと”は現象面のひとつであって、それをつぶしても根本原因をつぶさなければ、別の形になって今度は“そんなこと”が生まれてくる。
“こんなこと、そんなこと”がES調査でしか現れてこないということは、社員と会社との間にコミュニケーションが絶たれていて、信頼関係が失われていることを如実に表していると考えられる。回答した本人を責めるよりも、信頼関係づくりに勤しむことが先決だと考えたい。
調査の仕方として「無記名式」でありながら、社員を特定しようとする意図があると勘ぐられる方法はよくないと先ほど述べたが、「記名式」か「無記名式」を問わず、社員が安心して回答できる方式でありたい。「記名式」でも社員が堂々と不満(むしろ要望)を回答してくるということは、会社との間に信頼関係がある証拠であろう。会社は社員に対して、“言ってくれてありがとう!”というメッセージを発することができれば最高である。こうした会社の真摯な姿勢が好感を呼び、社員は眠ったふりをすることなく意欲を出し、能力を発揮しよう、輝こうとするだろう。
3.「従業員満足度調査(ES)」の目的を問い直してみては?
ここでは、従業員満足度調査(ES)と社員意識調査とを分けて論じたい。従業員満足度調査では、社員の不満箇所の把握という目的とともに、上司の人事評価あるいは調査を通じた社員自身の人事評価という目的が見え隠れする場合がわりと多い。モラルサーべィという呼ばれ方をすることがある。モラルが悪くなければ特に動かないが、モラルが悪いと犯人探しが始まるというものであれば、組織風土変革には遥かに届かない。むしろ逆行しかねない。
人事評価の目的のもとに「無記名式」で行うというのはどうかと思う。無責任な回答で人の人生を左右してしまいかねない。人事評価は、誰が評価したのかが見える形で行うのが好ましい。経営側からの評価が高いのに部下の信頼が全くない人を見つける目的であるのなら、調査という手段に頼るのではなく、そのための労力その他経営資源(ヒト・モノ・カネ)を、そのような幹部人材が生まれてくることを許さない組織風土をつくることに振り向けたい。
4.組織風土の変革のための「社員意識調査」とは?
社員意識調査を、社員が意欲を高め能力を発揮できる環境なのかどうか、働き方に対する意識など、組織風土を明るく活気のあるものへと転換する目的で行ないたい。
上司・本人の人事評価という目的を切り離し、組織風土の変革のための社員意識調査であることをお勧めしたい。社員意識調査でも、社員が満足しているかどうかという観点は大事であるが、同時に社員がどの程度重視しているとかという観点を持ちたい。満足している項目でも全く重視していなければ、それほど大きな意味を持たない。逆に重視している項目でも「普通」とか「やや不満」との回答であれば、重点的に対策を講じる必要が出てくる。
※【社員意識調査】にご関心がある方は、以下にて案内させていただいております。
組織風土変革のための【社員意識調査】