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コラム「研究員のココロ」

異業種から見えてくること

2005年10月31日 野尻剛


 経営コンサルタントという仕事の面白さの一つに、様々な業種のクライアントとお付合いが出来るという点が挙げられると思います。ちょうど、役者さんが様々な役柄を通じて人生の疑似体験をされるように、コンサルタントはコンサルティングを通じて様々な企業の経営の疑似体験をしているような気がします。
 そんなこともあってか、クライアントの方からよく、「色々な業種のコンサルティングをしないといけないのでは大変ですね」と言われます。勿論、大変な面もあるのですが、実は、クライアントと全く異なる業種を経験していることが、役に立つ事の方が多いのです。製造業での考え方、常識がサービス業で役立つこともありますし、逆に、サービス業で取組んでいる事や工夫が、製造業で応用できることもあるのです。今回は、製造業の考え方から見えてくるサービス業での改善視点の一案をご紹介します。

 製造業の企業が気にする指標の一つに「稼働率」というものがあります。稼働率とは、生産能力に対して実際に生産稼動をしている割合をいい、何%とというように示されます。この稼働率は高ければ高いほど良い、というものではありません。100%を大きく超えるような稼働率は、どこかで無理をしている証拠であり、生産能力の拡大そのものを検討しなければなりません。また、稼働率を上げたいからといって、売れもしない商品をたくさん作って、在庫の山を抱えてしまっては本末転倒です。結局、重要なことは、稼働率の数値そのものではなく、稼動状況に応じた適切な運営を行おうとする「稼動管理」にあります。
 一口に稼動管理と言っても多種多様な施策がありますが、中でも外注業者を上手に活用することは重要施策の一つです。簡単に言ってしまえば、稼動が緊迫している状況では、作業の一部を外注に任せ、全体の生産量を増やそうとし、逆に、閑散としている状況では、外注に出していた作業を内製化し、付加価値の取込みを図ります。勿論、外注業者との付合いをはじめ、種々の制約がありますから、完全にフレキシブルな対応は出来ませんが、この様な考え方、意識は非常に高いものがあります。

 それでは、サービス業では、こうした稼動管理の考え方がどの程度徹底して行われているでしょうか。私の印象では、比較的大雑把な施策(例:アルバイト等を活用した勤務シフトの工夫、クーポン等を活用した閑散日・時間帯での集客強化等)は行われていますが、きめ細かいところまでは出来ていないと感じています。
 身近な例として、チェーン展開しているコーヒーショップで感じたことを挙げてみます。日本総研の近くにもコーヒーショップが幾つかあるのですが、場所柄、お昼時は満杯で諦めて帰ってしまうお客さんも多くいて、夜になると1/3も席が埋まっていないという状況です。息抜きも兼ねて店内でコーヒーを飲むのですが、私が良く行くお店では決まって、プラスティック製の使い捨ての容器でコーヒーを出します。忙しい昼時だけでなく、暇な夜に行っても同様です。夜は、バイトの子達が暇そうに中でおしゃべりをしています。また、同じ系列店で別のお店に行くと、店内のお客さんにはマグカップで、持ち帰りのお客さんには使い捨て容器でという区分をしています。昼時の忙しい時は、洗い場や容器の返却場所は、飲み終わった容器で溢れています。
 先ほどの製造業における外注業者の活用の仕方から見ると、こういったオペレーションは、実に不思議に感じないでしょうか?使い捨て容器を利用するということは、「飲み終えたマグカップを下げて、洗って乾かし、再び使用出来る状態に戻す作業」を外注に出すことと同じです。その様に考えれば、忙しい昼時は使い捨て容器を活用して、少しでもお客さんの回転率を上げるようにし、暇な夜時はマッグカップで出して洗うようにして、少しでも外部支払費(容器代、廃棄代)を減らそうとするオペレーションにするべきです。

 勿論、一概にこうしたオペレーションにすることが良いとは限りません。什器を揃えるコストの方が割高になる場合もありますし、そもそも什器を置くスペースがないかもしれません。ただ、大切なことは、こうした小さな事についても、気が付き、科学的な検証を行い、真剣に取組む姿勢にあるかどうかです。これは私の印象ですが、飲食店を始めとしたサービス業の殆どの企業が、集客と労務管理だけに囚われ過ぎているような気がします。逆に言えば、集客や労務管理については、どの企業も同じ様なことを行っているわけで、差別化を図れる要因は別のところにあります。今回の容器に関するオペレーションは一例に過ぎません。同様の考え方を展開できる事はまだまだあります。製造業の優秀な企業では、1円のコストダウン、1歩の生産性向上に日々真剣に取組んでいます。そうした考えを持ったサービス業の企業が現れたら、これは非常に強い企業になるのではないでしょうか。
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