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コラム「研究員のココロ」

地域密着型SNSがもたらす自治体と地域住民の関係変化

2006年06月05日 矢野聡


1.はじめに
 「地域コミュニティー活性化」、「地域住民の行政への参加」を目的に、自治体のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)活用が検討され始めています。そこで本稿では、自治体がSNSに取り組むことの意義、地域活性化の可能性について考えてみたいと思います。


2.注目が集まりつつあるSNS
 SNSは2003年頃からインターネット上で急速に普及し、現在注目を集めているコミュニケーションサービスで、参加者が互いに友人を紹介しあって、新たな友人関係を広げることを目的に開設されたコミュニティ型のWebサイトの総称です。

 SNSの仕組みはサイトやサービスによって多少異なりますが、サイトへの参加方式として「誰でも自由に参加できる方式」と「既存の参加者からの招待がないと参加できない方式」があり、多くのSNSサイトでは後者が採用されています。また、自分のプロフィールをサイト内の友人のみあるいはサイト内の全員というように範囲を指定して公開する機能や、新しくできた「友人」を登録するアドレス帳、友人に別の友人を紹介する機能、サイト内の友人のみ閲覧できる日記帳や、特定のテーマごとにコミュニティサークルを形成し専用の電子掲示板・メーリングリストが利用できる機能などが提供されています。

 大手SNSの会員数をみると、日本最大のSNSである「mixi」の会員数は300万人を突破、そのうち7割は3日に一度はサイトを訪れているといい、利用者の多くは日常的に使っていることがわかります。さらに海外に目を向けると、米国の「MYSPACE(マイスペース)」は6000万人以上、韓国の「Cyworld(サイワールド)」は1800万人以上(韓国の総人口4700万人の3分の1)と世界的にもその注目度が高まっていると言えます。

 このSNSの特長の一つとして、「ある程度の匿名性を維持しつつも、信頼ある繋がりが発言のベースとなっている」ということが挙げられます。つまり、発言者は匿名性の下、発言すること自体への抵抗感は小さくなり、その一方、繋がりがある人と同じコミュニティにいることで、自然と良識ある言動を心がけるようになります。この2つの巧妙なバランスにより、活発ながらもトラブルが発生しにくいコミュニティが構築されていきます。

 そして民間企業では、このような活発なコミュニティが形成されるという特長を活かし、ヤマハの「プレイヤーズ王国」や全日空の「ANAフレンドパーク」をはじめ、消費者を対象に音楽や旅行などある話題に特化したSNSを開設するケースが増えてきています。これらのサイトでは、消費者同士のコミュニケーションを支援して市場活性化を図ったり、消費者と企業の製品開発担当者が直接コミュニケーションをとることで新商品開発に役立てるなど、Webサイト上での議論をそのままマーケティングに活かす仕掛けとなっています。また、大手SNSが全国的なスコープでサービス展開を続けるのとは対照的に、近年、地域に特化した情報交換、コミュニティ活性化を目的とした「地域密着型SNS」も全国各地で開設され始めています。運営主体はNPO、任意団体あるいは個人など様々で、運営に問題を抱えるサイトが少なくない中、地域に対する「感情」を共有する、まさに「共感」を軸にしたコミュニティ形成により地域振興への効果をあげるサイトも登場するなど、各方面でのSNS活用の試みがなされています。


3.自治体でのSNS活用の検討がスタート
 この様な民間でのSNSの急成長を背景に、地域コミュニティ活性化、さらには地域行政への住民参加の促進を目的として自治体での地域密着型SNS活用に関する検討が本格的に始まっています。その代表的な取り組みとして、総務省が2005年5月に立ち上げた「ICTを活用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会」の実証実験として開設されたSNSサイトである東京都千代田区の「ちよっピー」と、新潟県長岡市の「おここなごーか」があります。
この研究会の目的は、住民への情報提供、住民の意見表明の場面におけるICTの活用方策やルール作り、電子会議室やアンケート、民意把握のモデルシステムの実証実験により、ITを活用した住民参加の有効性を検証し、自治体向けのガイドライン、運用マニュアルを作成し、その成果をもって地域社会への広範な住民参画促進に繋げたいという考えです。そして、このモデルシステムの基本的な考え方として採用されているのが「地域密着型SNS」です。

 これまで実証実験サイトでは、「子供のたちの安心・安全に関する議論を行い、保護者間の結束力が強くなった」、また「自治体職と住民の間で公開された日記に対してコメントを返すといったコミュニケーションが行われ、行政事業についての議論が行われた」など、地域住民間、あるいは自治体職員と地域住民の間に新たな接点が作られコミュニケーションが活性化する効果が実際に得られています。
現段階ではパブリックコメント的な機能を主に検討が進められていますが、さらに自治体職員が業務の一部としてコミュニティの輪の中に参加し議論するような仕組みとすれば、次のような効果により議論が活性化され、今まで以上に住民の知恵・ノウハウを引き出し、地域の問題解決や地域行政への反映といった市民会議的な位置付けでの活用も実現できると考えられます。

(1)自治体職員からの積極的で迅速な情報提供による議論の連続化

  ある発言に対して次の発言をするためには「新たな情報」が必要なケースがほとんどです。ところが情報収集には時間がかかり、時には誰かの発言を待ち続けて議論が進行しないシチュエーションもあります。有意義な議論をストップさせないためにも、行政から提供できる情報は、積極的に、迅速に議論の場に投げることが必要です。

(2)職員との直接的な意見交換による参加者の意欲向上

  自治体職員と意見交換ができるということは参加している地域住民にとって非常に大きな手応えであり、次回発言への意欲へと繋がります。自治体職員の方にとって、地域住民に直接意見を述べることは抵抗があると思われますが、「書き込まれた内容を職員全員にメールで配信し、担当部署の職員は必ず答える」など、ある程度の強制力をもってでも意見交換をすることには意味があります。
  例えば、電子掲示板(電子会議室)の成功事例の1つである神奈川県大和市が運営する電子掲示板「どこでもコミュニティ」では、市役所の職員は全員参加という方針を採っています。職員はこのシステムの参加者として登録され、住民と実名で意見交換を行います。職員自身が責任を持って直接意見交換を行うことが、住民の参加意欲を向上させ、活発な意見交換にっています。

(3)意見交換した結果の行方を知らせることによる次回参加への動機付け

  自分が発言した結果がどう活用されるのかが参加者に見えると、次回の参加意欲へと結びつきます。自治体側が住民の意見を汲み取って、地域の行政に活かしていくということが明確に伝わるような形で参加者にアピールしていくことが重要です。
  例えば、電子掲示板(電子会議室)の成功事例の1つである神奈川県藤沢市の市民電子会議室」では、議論された内容は、市民で形成されている運営委員会を通して市に提案し、どのような手順でその提案が検討されるのかということが市からきちんと告知されています。


4.「地域密着型SNS」の可能性
 地域密着型SNSの検討はまだ始まったばかりであり、本格的な市民会議の場として機能し施策へ反映するといった効果を得るにはまだまだ検討が必要かもしれません。しかし、まずはITを活用して行政・地域社会への住民参加促進を検討し、地域内外におけるコミュニケーションツールとして根付かせること自体に非常に大きな意味があります。それは、自治体職員が間近に住民の存在を意識し、また住民自身がまちづくりの一員であることを意識するようになる、つまり地域住民と行政、地域住民同士の間にこれまでにない新たな関係が築かれるということです。この様な関係変化を起点に、これまで住民や自治体職員が個々では解決できなかったことが解決できるようになったり、これまでにない視点や発想で地域のポテンシャルを引き出すことができるようになる可能性が「地域密着型SNS」には秘められているのではないでしょうか。
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