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コラム「研究員のココロ」

残業問題解決
~仕事のスタイルを変える~

2005年05月23日 青木昌一


1.残業問題のクローズアップ

 残業問題への関心が高まっている。マスコミ報道で目にする機会や企業の経営者や人事担当者からその改善に向けての悩みを聞く機会が以前と比べて増えている。
 本当に悪質なものは論外だが、報道等から受けるイメージと異なりサービス残業を強要してタダ働きさせているというケースは実はそれほど多くはないようである。
 実際には、若手社員を早い段階で管理職として位置づけ、役職手当を支給して残業手当の支給対象から外しているケースや、上司が行動管理できるにも関わらず、営業担当者ということのみで事業場外労働の扱いをしているケースにおいて、比較的長時間の残業が恒常的に発生していることが問題視されているように感じる。
 会社の意図はよく理解できるのだが、結論から言うとこれらの指摘に対する言い訳はできない。
 なぜなら、裁量労働適用者や自らの判断で業務を執行できる管理監督職あるいは実質的に事業所外での仕事を管理できないといった一部のケースを除き、法律は厳然と残業には時間に応じて割増賃金を支払いなさいという基本スタンスを変えていないからである。たとえ管理職として位置づけていても、労働基準法で定める管理監督者の要件を客観的にみて備えていなければ、残業手当の支給対象にしなければならないのである。



2.仕事の時間と質

 仕事は時間ではなく成果や質によって評価され、給料の多寡が決められるべきであるとの議論がなされはじめて久しい。例えば基本給が同じ人で手際よく短時間で仕事を済ませた人と、要領が悪くて時間がかかったという人を比較したときに時間がかかった人の方が結果として給料が多くなるという矛盾は間違いなく存在する。
 裁量労働対象職種の拡大など、法律がこの矛盾解消にシフトしつつあるものの、まだまだ法律が社会の進化についていっていないという面は否めない。
 いずれにせよ、企業から残業を減らすことが出来れば、結果としてサービス残業問題を駆逐することにつながる。



3.なぜ残業が多いのか

 多忙を極めて、昼食を取る暇もないという状況で毎日「午前様」という人も実際に数多くいる。寝食を忘れるほど仕事にのめりこむことが、人の能力を高める効果も大きい。また、残業手当の支給対象を見直した結果、変更が必要な場合には賃金の仕組みを改めることが解決への第一歩となる。
 それらについての議論は別の機会に譲ることとし、本稿では減らすべき残業とその削減への取組み方法を論じたい。
 まず、慢性的な要員不足以外の原因に起因する残業にはどのようなものがあるのか。
  1. 上司や仲間の目を気にして会社に残り続けて残業扱いとなる。
  2. 手空きの状況が多かったり、日中の無駄なおしゃべりや不要な仕事に手間をかけた結果として時間外にしわ寄せがいっている。
  3. 上司から明確なミッションを与えられず、極めてあいまいな指示しかされないなかで手探りで仕事を進める。
  4. 上司のイメージ固めのために、下らない作業に忙殺させられる。

a に関しては極めて日本的な状況と言えよう。ナンセンスなのは、夜遅くまで残っているとか休日に出勤しているかどうかを人事評価において、重要視している上司が少なからず存在している点である。その結果、部下が用もないのに理由を作って会社に居残っているケースは意外に多い。
b は、いわゆる仕事に対する姿勢の問題である。悪質なのは社員が残業手当稼ぎのためにわざとこのようなスタイルをとるケースもある。
c と d は悩ましい問題である。実際にこのような形こそがマネジメントだという認識で育ってきた人は多い。あいまいな指示を出し続ける上司や、はじめはあいまいな指示しか出すことができず部下の報告を受けることによって、自らの意見を整理していくというスタイルの上司も多い。
 そして、自らが上司の立場になったときに明確に方向性を指示できる力を養うことができず、同じようなスタイルで部下に接していくという悪循環に陥るのである。
 但し、こういったあいまいな指示に食らいついて五感を研ぎ澄まし上司の視点で物事を考えることのできる、簡単に言えば、「察しの良さ」を身に着けるという育ち方は不測の状況に対する判断力を養うという経営的なセンスの練磨に大きく寄与するのも事実である。こういう良さまで消してしまってはならない。



4.残業を減らすために

 これらに対し、企業あるいは企業人としてはどう取り組むべきであろうか。
先に述べた a と b は企業の注意喚起や個人の意識改革によって解決は可能である。但し、いずれも企業風土に根差す問題なので、改革には思った以上にエネルギーを要する。そのポイントは以下のとおり。
  • 社員各々が仕事を長期・短期に分けてキチンとスケジュール化して取り組む。
  • 幹部と部下が手際よく仕事を終わらせるという強い意志を共有し、実際に仕事に集中して無駄な残業をしないあるいはさせないという行動をとる。
  • 常にこれは有効な時間の使い方かを自問自答する。
  • 会社が絶え間ない注意喚起を行う。通知したから終わりではいけない。しつこいくらいのフォローをしなければ元の木阿弥である。

  c と d はマネジメント能力を如何にして身につけるあるいはつけさせるかという問題である。指示を明確にする癖をつける以外に解決の術はない。
 そのためには、
  • 幹部が仕事を進めるうえできちんとプランを立てる。
  • 幹部自らそのプランを必要に応じて社内外にコミットメントをする。
  • コミットメントする際に説明する癖をつける。自ら説明できない仕事を部下にさせるのではなく、説明できるレベルまで咀嚼して部下に落とす。

 以上のようなプロセスを経ながら、明確に方向性を指し示す癖をつけさせていく。そのうえで、ここ一番、部下に考えさせる必要があるときには、落とし所を想定したうえでアバウトな指示を出し、その答えに対して判断を下す。
 本人もそうだが、会社も会議などの場をマネジメント教育の場としても位置づけ上記のような思考・行動を求めていく。
 また、幹部の評価項目にこれらの実践ができているかどうかを問う項目を入れることも仕掛けとしては有効である。

 以上のことを徹底すれば、残業時間の大きな削減につながる。それでもなお多くの残業をしなければこなしきれない仕事が恒常的にあるのであれば、それは明らかに要員不足ということである。その場合には増員や組織の見直しなどの措置を講じていく必要がある。
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