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Business & Economic Review 2009年5月号

【特集 人口減少下の都市・地域の再生】
縮退社会(Shrinking Society)下の地域再生の在り方-アメリカとEUの住民主導型再生を参考に

2009年04月24日 調査部 ビジネス戦略研究センター 制度・政策調査グループ 高坂晶子


要約

  1. 人口の偏在と利用度の低い土地の増加により「地域社会の縮退(shrink)」が進みつつあるわが国では、経済振興、コミュニティの再生、住民生活の再建等に取り組む「地域再生」事業の活性化が求められている。具体的には、複数市町村からなる生活圏・経済圏を横断する形で、公共サービス・施設の共同化、交通網の整備、公共・商業施設の立地調整、中心市街地の活性化等に取り組むことが急務である。その際、従来の行政主導のやり方では調整の長期化や最終局面での決裂等が懸念される。それを避けるため、住民主導で議論と具体的事業を積み上げ、取組みを進める方式への転換が求められる。

  2. 住民主導の取組みはわが国でもすでに行われており、先駆的な所では1990年代から、地域社会の縮退に危機感を抱いた住民の発案で市街地再生や地域おこしに成果をあげているケースがみられる。ただし、これらは、あくまで局地的取組みの域を出ず、わが国の住民主導の地域再生事業は、現状「点」の段階にとどまっている。この動きを「線」ひいては「面」へ展開することが今後の課題である。そのためのヒントを得るべく、本稿では欧米の事例を紹介する。

  3. わが国に先駆けて社会の縮退を経験した欧米では、住民主導で地域再生を進める手法が定着している。アメリカの場合、行政主導の開発が失敗したり、民間資金から取り残された地域において、住民が主導し、固有資源や地域特性を活かす取組みが成果をあげている。ヨーロッパ(EU)の場合、衰退地域の再生に向け、経済振興、社会開発、生活再建を同時追求するにあたって住民の主導性が尊重され、成果をあげている。

  4. 住民主導型地域再生の主なメリットは次の通りである。第1に、地域特性・資源を活かしつつ、弱点に配慮した再生事業が可能な点、第2に、住民の理解と協力を得ることで、実現可能性が高まる点である。もっとも、本タイプの再生事業では、とくに初期段階において、以下のような付随的デメリットが生じることも稀ではない。第1に、住民が意見や利害の調整、合意形成に習熟していないため、トラブルが生じて事業の推進力が失われがちな点、第2は、住民は雑ぱくな地域情報に通じていても、それを企画化、商品化する訓練や資金調達等に習熟しておらず、独力では実務に直結しにくい点である。

  5. 欧米社会においては、上記のメリットを活かし、デメリットを最小化するスキームが考案されている。これらは現場から生まれ、公的機関やNPO、企業等の手で各地に紹介された。現在ではスキームを統括する全国組織が組成され、情報・経験の共有、研修、政策提言等を行っている。代表的なスキームとして、以下の三つがある。

    a.メイン・ストリート(MS)・アプローチ・・・アメリカ中小都市を中心に、地域固有の資源・特性を活かした商業、観光振興のため、主に基本計画と具体策へのブレークダウン、実行に至るまでの方法論、ノウハウを提供し、住民の企画力、実行力不足を補うスキーム。

    b.タウンセンター・マネジメント(TCM)・・・イギリスを発祥にヨーロッパ10カ国において、主に組織の組成と運営方法を伝授するスキーム。多くの場合、地域社会の多様な意見交換の場である協議会、その意見を基に事業計画の立案と成果のチェックを行う理事会、計画の具体化に向け、強力に事業を推進するマネージャーの3層からなる。住民の知見と協力を幅広く得つつ、事業の推進力保持を可能とするスキーム。

    c.ビジネス改善地区(BID)・・・北米で考案され、ヨーロッパにも移植されつつある。事業資金不足を補うため、地域・期間限定の特別税の支払いを住民が自己決定し、地域社会のニーズに合わせたサービスや地域資源を活かした経済振興等に活用するスキーム。

  6. このようなスキームの下で行われる住民主導型地域再生事業に共通する主な特色としては、以下の3点を指摘できる。

    a.住民の知見や協力等のメリットを活かす目的で地域社会の多彩なメンバーの参画を奨励することにより、地域社会の直面する経済的、社会的課題を包括的に取り扱うことが可能となる。

    b.合意形成や企画、事業実施等に不慣れなデメリットを最小化する目的で、全国連絡組織や専門的人材など地域社会の外からの支援を積極的に仰ぐことにより、事業の推進力が維持されたり、高い事業効果が期待できる。

    c.住民主導型のメリットを活かすため、トラブルが生じても、行政は事業の肩代わりではなく住民の能力向上支援に努める。ただし、行政以外では実行困難な役割、すなわち徴税、法令策定、規制、公的資金補助、インフラ整備等については積極的に行動する。

  7. 翻ってわが国をみると、国の地域活性化統合本部において、地方の主導性を重視した地域再生がうたわれている。しかし、詳細にみると、事業スキームの骨格は依然として国が決定しているうえ、過去に推進された施策と首尾一貫しない方向も打ち出され、事業効果を損ないかねない状況である。コミュニティの縮退が加速化するなか、地域再生はわが国の将来を左右する極めて重要な課題であり、住民主導による実効性の高い取組みが全国展開されることが強く望まれる。そのためには、a.現場の成功・失敗事例を収集整理、定式化し、国主導、縦割りの従来型とは一線を画した事業スキームを策定する。同スキームの下に多彩な住民の参画を求め、地域課題に包括的に対処する、b.住民の意識・能力の向上を図るとともに、外部専門家による支援体制を強化し、事業の推進力と実効性を高める、c.法律や行政関連の問題については、住民主導型スキームでは対応困難であり、これを中立、公正に解決する枠組みを予め用意する、等の取組みが求められよう。
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