Business & Economic Review 2009年2月号
【特集 低炭素社会の実現にどう取り組むべきか】
地球温暖化が企業経営に与える影響とその対応戦略
2009年01月25日 総合研究部門 地球温暖化対応戦略クラスター 主任研究員 三木優
- はじめに
「地球温暖化」という単語は、ここ数年、日本においても新聞・TVなどのメディアに取り上げられる機会が増えてきており、関連した記事が新聞の1面を飾ることも珍しいことでは無くなってきている。
この背景には、2008年より京都議定書の第一約束期間が始まったことや昨年の北海道・洞爺湖サミットにおいて地球温暖化対策がメインテーマとなったことが挙げられる。このようにメディアへの露出が増加し、関心が高まっている
ものの、筆者が様々な企業と意見交換をした感想としては、日本では、地球温暖化を背景とした義務的な施策が実施されていないことから、将来的なリスクとしての漠然とした認識はあるものの、位置付けとしては「新しい環境問題の一つ」程度の企業が大半である。
一方、海外では、EUにおいて、産業部門からの温室効果ガス(Green House Gas、以下「GHG」と略す)排出量を一定水準以下に抑制するために義務的排出権取引制度(以下、「EU−ETS」と略す)が導入されるとともに、エネルギーの消費に対して環境税を課すなど、地球温暖化を背景とした様々な施策が実施されている。そのため、企業だけでなく市民レベルでも日本よりも切実に地球温暖化の「影響」を感じている。
アメリカにおいては、ブッシュ大統領のリーダーシップにより、離脱した京都議定書に関連する国連プロセス外での交渉や枠組みにおいて、地球温暖化対策の主導権を握ろうとするなど、自国の利益を損なわない地球温暖化対策を模索してきた。国内的には、連邦政府では義務的な施策は実施されていないものの、州政府同士が連携し、地域ごとに義務的排出権取引制度を導入するなど、地球温暖化対策が企業・市民に影響を与え始めている。更に、オバマ次期大統領は、大統領選から義務的排出権取引制度の導入と「グリーンジョブ(環境に関する仕事)」500万人の創出を打ち出しており、連邦政府レベルでも大きく方向転換することを表明している。
このように、日本と海外における企業の意識の違いは、政府が地球温暖化に関連して実施している施策の「切実さ」の差とも考えられる。EUおよびアメリカが短期的に見れば自国の経済に不利な施策も進めている背景には、国際政治において地球温暖化問題が非常に大きな地位を占めており、その傾向が強まってきていることが挙げられる。
本稿では、気候変動に関する国際連合枠組条約および京都議定書の採択までの流れを振り返り、国際政治において、地球温暖化が如何にして「全人類の課題」となったのかを概説し、その流れを踏まえつつ地球温暖化が企業にとって、どのようなリスクとなるのかを解説する。さらにそれらのリスクに対処するために必要なシナリオプランニング・シナリオ思考について、その有用性を紹介する。