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Business & Economic Review 2009年1月号

【STUDIES】
転換期を迎えたヘッジファンド

2008年12月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. 今般のサブプライムローン問題に端を発する金融危機はベア・スターンズやリーマン・ブラザーズの経営破綻にみられる通り、大手金融機関が中心となっている。それに対してヘッジファンドは当初、影響が総じて限定的にとどまっていたものの、危機が長期化するにつれて影響が次第に深刻化し、危機を加速させる役割を果たしている。

  2. ヘッジファンドは、金融危機によってa.リターンの低迷、b.投資家からの資金の流出、c.プライムブローカーからの借り入れの困難化、d.ハイリスク分野における市場の混乱、などに見舞われ、さらに2008年9月以降はリーマン・ブラザーズの破綻や、主要各国で導入された空売り規制の影響で苦境に陥った。こうしたなか、ヘッジファンドは投資家からの解約請求やマージンコールに応えるために保有資産を相次いで売却しており、それが市場での資産価格の押し下げにつながった。さらに、資産価格の下落は解約請求やマージンコールに拍車をかけ、資産価格の一層の下落を引き起こしている。こうした負のスパイラルの継続によって、金融市場では各種資産の価格下落が続き、金融危機を一層深刻化させている。

  3. 金融危機以前の過去10年間において、ヘッジファンドは機関投資家からの資金流入に支えられて急成長を遂げた。その過程で大規模化が進んだうえ、伝統的な金融機関までもが買収に乗り出すなど、ヘッジファンドの存在感は大幅に高まった。しかしその陰でリターンの低下に見舞われ、それに対応するためにプライベート・エクイティ・ファンドなど他のオルタナティブ投資分野、さらには一部銀行業務に進出するなど、多角化の動きが大手を中心に起こった。その結果、大手ヘッジファンドは従来の姿から次第に変貌していった。

  4. 今般の金融危機を踏まえたヘッジファンドの将来像を展望すると、運用資産残高、数ともに大幅に縮小する公算が大きい。これは、a.これまで注力してきた複雑な金融商品取引の市場縮小、b.金融市場の流動性低下、c.借り入れコストの上昇、などの影響による。ただし、機関投資家を中心にオルタナティブ投資への需要が根強いことを考えると、ヘッジファンドが消滅することは見込み難い。

  5. こうしたなか、大手ヘッジファンドは多角化の動きを加速させると見込まれ、総合的な投資ファンド、あるいは金融会社へと変貌し、もはやヘッジファンドと呼ぶのは適切でなくなる。従来型のヘッジファンドとして残るのは小規模のところであり、彼らはニッチ・プレイヤーとして、機動性の高さを駆使してこれまでにない新たなハイリスク・ハイリターン分野を果敢に探し出していくと予想される。

  6. ヘッジファンド業界にとって最大のリスクは規制強化である。現在、ヘッジファンドに対する規制論議が再び盛り上がっており、a.空売り規制の恒久化、b.プライムブローカレッジ規制の強化、c.ヘッジファンドへの直接規制、などが俎上に上がっている。ヘッジファンドの強みは活動の自由度が高いことであり、規制強化で自由度に一定の制約が課されると大きな痛手となりかねず、ヘッジファンド業界は一段と縮小することになろう。
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