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Business & Economic Review 2008年12月号

【STUDIES】
地方自治体の外郭団体経営問題と対応の方向性

2008年11月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 河村小百合


要約

  1. わが国の自治体の財政運営が一段と厳しさを増すなか、本稿では、これまで必ずしも十分な分析が行われてこなかった自治体の外郭団体の経営問題に焦点をあてる。まず、自治体が、外郭団体に対して金融的な手法による支援(外郭団体への自治体自身からの貸付、外郭団体が民間金融機関等から資金を借り入れる際の債務保証・損失補償の付与)を多用した結果抱えているリスクを、公表計数に基づき試算する。

  2. 試算の結果によれば、全都道府県・政令指定都市が抱えている潜在的なリスクの規模は、合計で約10兆円に達する。内訳をみると、総じて都道府県よりも政令指定都市の方に、この問題が深刻である自治体が多い。
    さらに、個別自治体ベースでみると、都道府県、政令指定都市ともに、外郭団体関連で抱えているリスクの規模が極端に大きい自治体と、ごくわずかな自治体との間の差が極めて大きいことがわかった。地方交付税の不交付団体となっている等、本来、財政力の強いはずの自治体の抱えるリスクが大きくなる傾向も窺われる。このようにみると、この自治体の外郭団体経営の問題は、「地方」の問題というよりはむしろ、「大都市部」の問題という要素が強いことがみてとれる。

  3. 試算結果からは、普通会計にかかるリスク負担が過度なものとなっている自治体が受けられる。
    これらの自治体のなかには財政規模の大きいものも含まれる。今後の金利情勢等次第では、この問題を処理し切れないようなケースが、これらの自治体複数について同時に発生する、といった可能性も否定できない。
    ちなみに、今般公表された、健全化法に基づく「将来負担比率」が相対的に高い自治体の顔ぶれには、本稿における試算結果とは重ならないケースがみられた。これを今回の試算結果と単純に比較することはできないが、両者の乖離は、将来負担比率の算出の際、各自治体の個別事情に即した対応が重視されたことによる面があると考えられる。

  4. この問題への対応として計画されている「地域力再生機構」構想は、現段階のものでは有効に機能するとは考えにくい。具体的には、出資金や借入金に対する政府保証枠は、試算結果に比較すると、相対的に小規模にとどまっていることに加え、本来、対応を必要とする経営状態の悪い外郭団体が、機構の対象から漏れてしまうことになりかねない。また、自治体によって抱えるリスクの度合いに大きな差が存在するにもかかわらず、全都道府県一律での出資が求められているほか、都道府県よりも総じて深刻な状況にある政令指定都市が、出資元として想定されていない点も問題である。

  5. 外郭団体の経営問題を解決するためには、経営状態の相当に悪い外郭団体への対応を避けて通ることはできないが、そこには、自治体の債務保証や損失補償が付与された外郭団体の債務を、いかに履行するのかという問題が含まれる可能性がある。その場合、地域金融機関の経営問題や、地域経済において、大きなインパクトを持つことにもなりかねない。
    外郭団体の経営問題の先送りはもはや許されず、地域金融・地域経済に及ぼす影響を含め、多角的な観点からの包括的な対応策の策定と、そのすみやかな実行が求められている。
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