コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2008年03月号

【POLICY PROPOSALS】
パートタイム労働者の増加と年金制度の現状および課題

2008年02月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 西沢和彦


要約


  1. 近年のパートタイム労働者の増加に対し、年金制度の対応が遅れてきたことは否めない。その結果、自営業者と農林漁業者のための制度として発足した国民年金の最大加入ウエートを占めるのは、今日では、厚生年金から洩れた雇用者となっている。もっとも、国民年金は、定額保険料・定額給付など雇用者の所得保障ニーズに合致しておらず、加えて、給与からの保険料天引きができないことが保険料納付率低迷、いわゆる国民年金空洞化の一因ともなっており、パートタイム労働者の厚生年金の適用拡大が急がれている。

  2. このような状況の要因は、主に三つ考えられる。一つは、法制の未整備である。厚生年金保険法には、パートタイム労働者の適用基準が書かれておらず、パートタイム労働者を厚生年金に加入させるか否かは、実質的に事業主の裁量に委ねられている側面が大きい。二つめは、社会保険庁の執行の弱さである。総務省によれば、約3割の事業所が厚生年金の適用事業所となっていない。三つめは、年金制度そのものに由来する要因である。保険料の事業主負担の重さが、パートタイム労働者を生み出す誘引になっていたり、第三号被保険者の仕組みが、パート主婦の厚生年金への加入意欲を削いでいたりする。

  3. このような状況のもと、2007年の通常国会に提出され、パートタイム労働者の厚生年金適用拡大が盛り込まれている「被用者年金一元化等法案」の内容をみると、週20時間以上という就労時間基準を厚生年金保険法に明確に書き込む点などに意義が認められる。他方、就労時間基準以外に、月98,000円以上という賃金基準が付け加わったことなどから、パートタイム労働者の適用拡大効果は、政府推計でも10万~20万人と極めてわずかなものにとどまり、かつ、確実な執行が危ぶまれるなど少なからず課題を残している。

  4. 今後、少なくとも次の2点の見直しに着手する必要がある。一つは、現行年金制度の枠組みである。現行の枠組みを前提とする限り、上記の適用拡大効果が限界である。適用拡大のため、給与基準月98,000円をさらに引き下げると、厚生年金の加入者と国民年金の加入者との間で、負担と給付において、著しく公平性が損なわれるためである。二つめは、徴収のあり方である。事業主負担がすでに重いうえに、17年度まで保険料率が上がり続けるという徴収にとって厳しい状況のもと、事業主に金銭的・事務的コストのかかる適用拡大を確実に行うには、執行強化が不可欠である。しかも、行政・事業主双方の事務コストを極力抑制するなかで行わなければならず、税と社会保険料徴収一元化で効果を上げている先進諸外国に学びつつ、改めて徴収のあり方が見直されるべきである。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ