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Business & Economic Review 2005年08月号

【REPORT】
アメリカで拡がる生命保険買取事業とわが国における展望

2005年07月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 研究員 古澤優子


要約
  1. 近年、アメリカでは、生命保険の売却を希望する者から余命に応じて割引いた価格で死亡保険金を受け取る権利を買い取る生命保険買取事業が定着しつつある。この事業は、生活費や医療費に困窮したエイズ患者の資金需要を満たすために、1980年代末に生まれた。その後は、買取対象が健康な高齢者や最高経営責任者(CEO)の保険にまで広がり、市場規模が拡大している。

  2. 生命保険の買取事業の仕組みは、a.買取型、b.完全転売型、c.複数投資家型、d.信託利用型に分類できる。a.では買取会社が買い取った保険契約を被保険者が死亡するまで保有するのに対し、b.~d.では、買取会社は買い取った保険契約を投資家に転売もしくは流動化して販売する。投資家は、追加の保険料を求められるリスク、買取会社の破綻に伴うリスク等、様々なリスクに晒されている。

  3. 生命保険買取事業に対する規制は、被保険者の保護と投資家の保護の二つの局面に分けられる。前者についてはNAICがモデル法を示すなど、規制の枠組みが整いつつある一方で、後者については、連邦レベルでの統一した規制の枠組みは存在していない。

  4. 生命保険会社はこのような買取会社の動きに対抗するため、生前給付保険を開発したものの、給付要件や給付額に制限があることから、買取ニーズのすべてをカバーすることはできず、買取市場の拡大に歯止めをかけるよりは、すみ分けを促す形となっている。

  5. わが国においても、昨年、初めての生命保険買取会社が設立されたものの、保険契約者の名義人の変更を巡り、生命保険会社と係争中である。わが国における保険買取事業を展望すると、a.医療費の自己負担分の増加が見込まれること、b.生前給付保険の給付要件の緩和には限界があること、c.余命や病名の告知希望者が増加していることから、末期症の患者を中心に買取事業が普及する可能性がある。その際には、a.買取事業に対する適切な法規制を整備すること、b.保険契約者の変更にかかる約款を見直すこと、c.売却代金に対する課税を生前給付金と同様とすること、等が課題となる。

  6. 生命保険買取市場の出現は、保険を解約する以外に資金を得る方法がなかった被保険者に新たな資金調達の手段を提供した。見方を変えると、生命保険会社の独占市場であった生命保険の売却市場に新たな買い手が現れたことを意味しており、この事業の発展は、将来的に解約返戻金の水準の適正化を促す可能性がある。
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