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Business & Economic Review 2007年12月号

【SPECIAL REPORT】
東アジアのLCD(液晶)産業クラスターのネットワーク構造と協力方案

2007年11月25日 サムスン経済研究所 主席研究員 具本寛、サムスン経済研究所 主席研究員 ト得圭、上席主任研究員 武山尚道、主任研究員 池田栄治、主任研究員 竹内順子、主任研究員 井関貴資


要約

東アジアで台頭したLCD産業は、急速な需要増加と投資増大の影響により東アジア各国の主力産業として成長するに至った。韓国を始め日本、台湾、中国が戦略産業としてLCD産業を育成したことにより、東アジア地域は世界唯一のLCD開発・生産拠点として発展した。LCDは需要機器がノートブック・モニター・テレビと拡張したことから、市場規模は1998年75億米ドルから2005年380億米ドルに増加した。しかし、最近では急激な価格下落により収益性が悪化しているなかで、LCDパネルの大型化による装備と部品・素材およびプロセスの革新が必要である。さらにPDP(プラズマディスプレイパネル)、OLED(有機ELダイオード)、SED(表面電界ディスプレイ)などの競合製品が続々と登場しているなかで、ノートブック・モニター・TV以外の新たな需要の発掘も急務である。

このような環境変化においてもLCD産業の先端地域としての地位を維持・強化するためには相互の協力が必要である。しかし、東アジア各国が自国の戦略産業としてLCD産業を育成してきたことから、開発企業間の競争が深化するにつれ、各国および企業次元では協力を期待するのは困難な状況におかれてしまった。

そこで、本研究では東アジアLCDクラスターのネットワーク構造を分析して相互の協力方案を導出した。これまでLCD産業はクラスターとして進化している現実がありながら、ネットワークの構造改善という観点から協力方案を検討した既存研究がほとんど見当たらない。研究方法は、まず東アジアLCD産業の懸案を導出するため、東アジア各国のLCD産業の現況と発展過程を分析した。加えてネットワーク構造を把握するためLCD特許の分析、日本と韓国のクラスターに対するアンケート調査を実施した。最後に懸案解決のためのネットワーク構造の適合性を点検し、これを改善することができる協力方案を検討した。

LCD産業は、LCDパネル産業を中心にして前後方産業が連結された構造で、韓国を始めとする日本、台湾、中国などの東アジア地域の各国が全世界にLCDを独占的に供給している。LCD産業は多様な異種技術を統合する知識集約産業で、大規模投資が必要とされる装置産業である。また、好況と不況の景気循環を反復する‘クリスタルサイクル(Crystal Cycle)’が発生する産業といわれている。

日本は世界最初のTFT-LCDの商品化に成功したが、韓国と台湾の量産を契機に事業再構築を推進しており、大型LCDはシャープとIPSアルファテクノロジーを中心にクラスターが形成されている。90年代中盤、LCD産業に進出した韓国は急速に市場占有率を拡大している。台湾企業は、日本企業との提携を通じてLCDパネルを量産化している。中国の大型パネル生産は、2004年下半期から本格化した。東アジア各国は、パネルと部品・素材の需給を巡る多様な分業関係を形成しているが、共通の懸案を持っている。すなわち、急速な価格下落、パネルの大型化加速、主要部品・部材の独寡占化、競合ディスプレイの浮上、新たな液晶需要の発掘などである。

1975年~2005年、アメリカに出願された東アジアLCD産業の特許を分析した結果、ネットワーク構造は国家およびパネル企業別に断絶していることが判明した。

シャープを中心に日本の三重県に形成された‘三重クリスタルバレー’のネットワーク構造は完結型、製造機能中心、垂直統合型の特徴を保有していた。また、韓国のLCDクラスター(タンジョン~パジュ地域)は、パネル企業別に分離されたネットワークから生産関連知識を中心に交流活動を行っていた。
これらの調査結果から、東アジアLCDクラスターのネットワーク構造は次のように要約される。a.国家別の完結型クラスターを志向、b.国家別に分離された断絶型ネットワーク、c.特定パネル企業中心の
Hub-Spoke型、d.進出国とは独立的である外資系企業の知識交流、e.非公式的ネットワークの不備。
これらのネットワーク構造は、新しい革新と協力を要求する懸案を解決するには適していないことは明らかである。

本研究ではこの対策として次のような協力方案を提示する。1点めはネットワーク構造の改善である。‘世界LCD産業協議会’の役割を拡大・再編して外資系部品・素材企業の相互作用(Interaction)を促進させ、‘東アジア共同研究開発センター’の設立を推進しなければならない。これらを通じて断絶された東アジアLCDクラスターのネットワークを連結する多様なチャネルを構築しなければならない。次に、人材基盤の育成である。日韓の政府、大学および代表的な企業からなるFPD人材育成のための組織を設立し、カリキュラムの開発と製造現場におけるOJTなどを活用した人材教育を実施する。3点めに、市場機能制度の拡充である。LCD産業の関税および非関税障壁を緩和して、不完全な輸出入品目コードを整備し、知的所有権保護を強化しなければならない。このような市場機能の活性化を通じて、長期的かつ効率的な分業構造を形成しなければならない。最後に、収益基盤の拡充である。原材料の安定供給にむけた相互協力やデジタルTVへの早期導入にともなうブラウン管代替需要の拡大による競争市場環境の改善のための協力が求められる。
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