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Business & Economic Review 2006年05月号

【STUDIES】
国税・地方税・社会保険料徴収機関分立の問題と改革試案-諸外国との比較を通じて

2006年04月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 西沢和彦


要約

  1. 総額126.9兆円(2003年度、以下同)に及ぶ国税・地方税・社会保険料の徴収は、国税庁、地方自治体、社会保険庁、労働局などバラバラの徴収機関によって行われており、かかる状況の見直しは、政府の掲げる「小さくて効率的な政府」実現のための推進力になるといえよう。もっとも、わが国ではこれまでほとんど議論されてこなかったテーマである。本稿では、徴収機関に関するわが国の特徴・問題を、諸外国との比較を通じて改めて洗い出し、それらを踏まえて改革案を提示した。

  2. 比較は、次の手順による。まず、一般政府を構成する中央政府(連邦政府)、地方政府、社会保障 基金政府(連邦政府の場合、州政府が加わる)各政府部門間の、所得・消費・資産等課税ベースの棲み分け・重複の程度を整理する。棲み分けが進んでいるほど、納税協力費用(納税者の負う金銭的・ 時間的負担)および税務行政費用に重複が発生しにくい税制・社会保障制度であると判断される。逆に、重複の程度が強いほど、政府部門をまたぐ一体徴収等がなされない限り、費用の重複が発生する ことになる。そこで、次に一体徴収等の有無を調べる。

  3. わが国は、中央・地方・社会保障基金の各政府部門間で、課税ベースに重複が多く、それにもかか わらず、徴収機関は並存している。とりわけ、社会保障基金政府には、国の機関だけでも社会保険庁と労働局の二つがあることをはじめ、複数の機関が存在している。加えて、政府部門をまたぐ一体徴収が行われているのは、総税収の1.9%(2.4兆円)に過ぎない国税庁・税関徴収の地方消費税(都道府県税)のみである。

  4. 本稿で対象とした6カ国に目を転じると、まず、スウェーデン、イギリスでは、地方政府には地方 特有の税目しか存在していないように、課税ベースの棲み分けが進んでいる。そのうえ、スウェーデンでは、国税・地方税・社会保険料すべてが租税庁によって徴収され、イギリスでは、国税・社会保 険料とも歳入・関税庁によって徴収されている。イギリスでは、納税協力費用削減を主目的として、近年徴収機関の集約が強力に推し進められてきている。フランスでは、税と社会保険料は別個に徴収 されてはいるものの、主要な地方税は国が徴収している。アメリカでも、各政府部門間で課税ベースの棲み分けが概略行われているうえ、国税・社会保険料(社会保障税)とも内国歳入庁によって徴収 されている。他方、課税ベースの重複が色濃い国の一つ、カナダでは、カナダ歳入庁で州税を連邦税と一体徴収すべく、連邦政府が多くの州と契約を締結している。社会保険料も同庁が徴収している。 課税ベースの重複が色濃いもう一つの国、ドイツでは、主要な税に関しては、「共同税」として州政府が徴収のうえ、連邦・州・地方政府間で配分しており、社会保険料に関しては、わが国の健康保険 組合の範となった「疾病金庫」が医療のみならず年金・雇用などすべての社会保険料を徴収している。疾病金庫は、政府とは独立した法人であり、職域ごとの共済組合を起源としている。

  5. これら6カ国と比較すると、わが国の状況は「特異」である。わが国は、政府部門間で課税ベース の多くが重複し、納税者側・行政側双方に余計な費用が発生しやすくなっているにも関わらず、ドイツやカナダのような一体徴収はほとんどなされていない。わが国は、基礎年金に象徴されるように全 国民共通の社会保障制度を持ちながら、全国民共通の社会保障制度を持つスウェーデン、イギリス、アメリカ、カナダとは異なり、国税と社会保険料の一体徴収が行われていない。しかも、社会保険庁・労働局という国の機関が行っており、疾病金庫が徴収を行うドイツとも異なる。かかるわが国の特異さが、納税者の立場に立ったものであるとも、「小さくて効率的な政府」という政府目標と整合 的であるとも考えにくい。

  6. 本稿の改革試案は、次の通りである。現在、国税庁、地方自治体、社会保険庁、労働局は、それぞ れ41.7兆円、35.1兆円、27.8兆円、3.6兆円の税・社会保険料を徴収している。このうち、各政府部門間で課税ベースが重複しているものについては、国税庁による一体徴収へ極力改める。地方自治体には、 固定資産税等および自らが保険者(運営者)となっている国民健康保険等の保険料徴収のみを残す。社会保険庁と労働局は、徴収業務から完全に撤退する。この結果、国税庁の徴収額は、総税収の 72.9%に相当する92.5兆円まで増加する。
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