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Business & Economic Review 2007年09月号

【REPORT】
グローバル化する金融・資本取引におけるわが国証券取引市場の在り方

2007年08月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 研究員 藤山光雄


要約

  1. 近年、欧米を中心とした証券取引所において、統合や提携をめぐる動きが活発化している。こうした取引所再編の背景には、証券取引の拡大やグローバル化などの市場の変化に対応し、投資家や企業の取引ニーズを少しでも多く取り込もうとするグローバルな取引所間の競争がある。1990年代以降、欧米の証券取引市場が新たな競争環境に積極的に対応し、急速に取引を拡大する一方で、わが国の証券取引市場の国際的な地位は、相対的に低下傾向にある。

  2. 金融・資本取引のグローバル化により、資産運用・調達の場が、国内の市場だけでなく世界の市場のなかから選択されるようになりつつある。欧米の証券取引市場は、こうした取引を取り込むことによって、経済成長を大きく上回る拡大を果たしている。グローバルな金融・資本取引を取り込むことが市場の拡大に寄与すると考えられるのは、海外の「カネ」の流入のみならず、a.優秀な人材や高度なノウハウ、b.金融・資本取引に付随する様々な情報、が自国にもたらされるためである。

  3. グローバルな金融・資本取引が拡大するなかで、わが国証券取引市場は、そうした取引を十分に取り込めておらず、結果的に国際的な地位の低下を招いている。また、アジアには突出した国際金融センターが存在しないため、リスクマネーの変換機能を欧米の金融機関や市場に大きく依存している。

    これらの状況を踏まえれば、わが国の金融・資本市場は、アジアにおける国際金融センターとしての地位の確立を目指すべきである。

  4. そもそも、わが国にとって金融・資本市場の発展が不可欠なのは、市場の発展が個人金融資産の効率的な運用機会の向上に資するためである。現在、わが国では個人金融資産の約半分が現金や預金にとどまっていることに加え、少子高齢化が進行しており、個人金融資産の効率的な運用が喫緊の課題となっている。

    また、金融サービス産業は、今後のわが国の経済成長を牽引していく産業の一つとして期待されるほか、高度化された金融サービスの提供を通じて、企業の資金効率を高めることが可能である。すなわち、金融・資本市場の発展を通じて、金融サービス産業が十分な機能を発揮していくことが、わが国経済の持続的な成長をもたらすと考えられる。

  5. わが国の金融・資本市場がグローバルな取引を取り込むためには、グローバルな企業や投資家によって、世界の金融・資本市場のなかからわが国の証券取引市場が選択されなければならない。市場の選択を行う際の評価項目としては、企業にとっては、a.投資家の厚み、b.IRコスト、投資家にとっては、a.取扱商品の多様性、b.取引コスト、c.取引所のシステム能力、が重要である。

    これらの項目について、わが国証券取引市場の現状を評価すれば、企業からみた評価では、個人金融資産の市場への流入が限定的であり、量と質ともに投資家の厚みが不足している。また、外国企業にとって日本語による開示資料の作成や日本の会計基準への対応が、IR活動における追加的なコスト負担となっている。一方、投資家からみた評価では、取扱商品が豊富とは言い難く、わが国は近年急速に活発化するデリバティブ市場から取り残されるかたちとなっている。また、言語や会計基準の違いが投資先に関する情報収集コストの増加要因となっているほか、取引所のシステム能力の面においても、海外取引所に比べ相対的に低い水準にあることが懸念されている。

  6. グローバル化する金融・資本取引の動向と、わが国証券取引市場の現状を踏まえると、わが国に求められるものとして、以下4点が指摘できる。

    第1に、自主規制機能の強化と投資家への情報発信の拡充である。わが国の豊富な個人金融資産の市場への流入を促すためには、投資家が安心して参加できる市場を構築する必要がある。第2に、外国企業の誘致に向けたIRコストの削減である。一般向け市場においても、企業と投資家の間に適切な情報提供者が介在することにより、開示規制を緩和することを検討すべきである。第3に、デリバティブを中心とした取扱商品の多様化である。多様化の方法論として総合取引所の設立などが検討されているものの、デリバティブ取引の活性化や取引所間競争の在り方なども検討すべきである。第4に、取引所システムの高度化である。海外取引所に劣らないシステムを構築・維持していくためには、拡張性と柔軟性を持ったシステム作りが必要である。

  7. 欧米取引所の再編が急速に進むなかで、わが国証券取引市場はグローバルな金融・資本市場の発展から取り残されてしまう可能性がある。わが国取引所が海外の動きに比べ、遅れをとっていることを認識したうえで、早急に改革を進めることが求められよう。
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