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JRIレビュー Vol.10, No.94

社会人の学び直しの充実に向けた提言ー誰もが働きながら大学・大学院でupskillingできる社会の実現を目指して

2021年09月30日 安井洋輔


経済社会の構造変化が起こるなか、わが国の経営者や労働者(以下、社会人)は付加価値生産性を高めるために様々なスキルを学び直す必要がある。もっとも、わが国の社会人の学び直しの状況は諸外国に比べ低調である。

わが国で今後学び直しを普及させていくには、以下のような学び直しを阻害する要因を取り除く必要がある。第1に、仕事繁忙。諸外国に比べわが国における長時間労働者の割合は際立って高い。政府は、時間外労働の上限を引き下げることで、社会人が学び直しの時間を確保できるようにすべきである。第2に、高コスト。資金制約に直面する社会人はスキルの訓練費用を抑制せざるを得ない。政府が個人に対して資金的なサポートを行うことで、こうした労働者の資金制約を緩和し、学び直しを社会的に最適な量まで引き上げていくことが求められる。第3に、適切なコースが不明。キャリアアップに必要なスキル自体が分からないという問題に対して、政府は、職業別に必要とされているスキルを把握でき、それを習得できる講座を提供している教育機関がすぐに分かるよう、2020年3月に開設したO-NET(職業情報提供サイト)の機能を拡充するべきである。

政府が社会人の学び直しを支援するための具体策としては、教育訓練給付制度の拡充がある。政府は2014年に中長期的なキャリアアップを支援するために専門実践教育訓練給付制度を創設したものの、講座の分野・提供地域に偏りがある。とりわけ、デジタル関連の講座が著しく不足している。全国各地の大学・大学院に参入を促し、こうした問題を解決していく必要がある。もっとも、社会人向け講座のカリキュラムや教育方法などの教える能力の向上も大きな課題であり、また、国立大学・大学院は専門実践教育訓練制度への参加について総じて消極的である。背景には、大学教員は社会人が求めていることについて知る機会に乏しいほか、国立大学事務局は文部科学省の通達に関心が集中し、他の省庁の取組に対する関心が薄いことや、すでに大学運営に忙殺されている大学教員に対し、社会人向けの教育負担を増やすのは困難なことがある。大学・大学院は社会人の学びのニーズを的確に認識するとともに、企業と協働することで、教える能力の向上を図るべきであり、政府は、省庁間の壁を越えて連携し、国立大学・大学院に講座提供を促すほか、大学教員の事務負担を軽減すべきである。

教育訓練の質の維持・改善や財源の確保も重要である。公的職業訓練における訓練内容は毎年度検討されている一方、専門実践教育訓練の講座内容については、定期的な検証はなされていない。政府は、適切なアウトカム指標を設定・集計し、実効性のある検証を行うことが求められる。また、財源については、雇用保険料から法人税にシフトすることが望ましい。学び直しのための法人税負担の増加は、人材の高度化や高度人材採用による付加価値の増加という形で企業にも還元されるためである。

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