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人的資本への投資も「科学」の時代に~ビッグデータ・AI活用 「成果を出す人材」を分析~

2021年06月01日 下野雄介


「人的」資本への投資が評価される時代が迫る
 産業革命を契機に生まれ、世界を覆いつくした「工業的」資本主義は、近年では情報や知識を重要な資本とする「情報」資本主義に変化したとも言われる。そして、深刻な労働力不足が予測される中で、今度は「人的」資本主義と呼ぶべきものが生まれようとしている。ここでは、人的資本への投資が経済成長にとって最大の源泉となる。
 環境・社会・ガバナンスという 3つの要素から投資先の中長期的な成長性やリスク耐性を重視した選定や評価を行う
ESG投資では、既にその傾向が表れつつある。例えば、ガバナンスの一環として「人的資本への投資が活発で、かつ収益率につながっている企業を評価する」動きが投資家の間で見られるようになっている。
 例えば、2020年8月には、SECが人的資本の状況や投資およびその成果に関する情報開示を米国の上場企業等に義務付けることを公表した。前年の2019年には、人的資本マネジメントの国際規格ISO30414が公表され、コンプライアンスと倫理、人事関連コスト、採用、離職、生産性、安全衛生、リーダーシップ、エンゲージメントなど幅広い定量・定性情報開示の基準が定められた。米国の情報開示基準もISO30414に準拠する見通しと言われ、ドイツでも一部の企業がISO30414に準拠した情報開示を開始した。
 日本でも2020年7月に、人的資本主義時代における経営手法の概要をとりまとめた「人材版伊藤レポート」が経済産業省から公表された。そのなかで同省は、人材情報開示に関する積極的な情報発信や、情報開示のパイロットとしての「人材活躍度調査」の実施、コーポレートガバナンスの取り組み支援を推進するとしている。
 今後は人的資本情報開示の機運は徐々に高まると考えられる。株式市場において「人的資本を中核に置き、積極的に投資し、効率的に回収する」企業が評価される時代はすぐそこまで来ていると言えるだろう。

科学的な人材マネジメントが投資回収率を持続的に向上
 企業は、再現性のある人材マネジメントを行い、人的資本の投資収益率を「持続的に」向上させることが求められることになる。これまでのように、暗黙知的あるいはリアクティブではなく、人材を「科学的かつプロアクティブに」マネジメントする力が必要となる。
 そうした中、加速度的に研究・実証が進んでいる人材マネジメント手法が「タレントマネジメント」だ。従来の人材マネジメントでは、形式知的なスキルや経歴などの情報に基づき、属人的、暗黙知的に採用・配置・育成を行っていた。一方、タレントマネジメントでは、それらのほか個々人の行動や考え方までを対象として膨大な情報を蓄積し、科学的に分析する。そうすることで、成果を出す人材要件を科学的に分析し、人材育成や採用・配置における再現性を確保している。厚生労働省の調査によれば、タレントマネジメントを導入した企業は2012年には2%程度だったが、2017年には7.1%まで上昇するなど、取り組みは活発化が進む状況だ。

「タレントマネジメント」ではビッグデータやAIなどを活用
 タレントマネジメントは、ビッグデータの蓄積とAIなどによる分析・マイニング技術の発達で、一気に「使えるもの」にまで進化した。最近では、勤怠やPCログといった働き方情報のほか、スキル開発や評価の履歴、秘匿性上問題ない範囲に限定されるが社員間のコミュニケーション情報まで、多様かつ断片的な情報が蓄積できる。それらによって、人材の行動特性や考え方の分析が可能となり、人材の採用や職場環境の整備などに役立てるようにもなっている。
 米国の人材開発ソフトウェアプロバイダーCornerstone OnDemandの調査(2016年)によれば、タレントマネジメントを実践している企業のうち、74%が「売上高が1%以上向上させるインパクトがあった」と回答した」とされる。さらに同調査では、離職率の低減や、要員不足による機会損失の解消、採用失敗の回避、生産性向上など、様々な側面から、タレントマネジメントが利益向上に貢献することが言及されている。
 人の内面を扱う人的資本経営は、「実装から少なくとも5~7年」(ある大手電機メーカー幹部)という意見もあるなど、投資から効果が出るまで通常の案件よりも長期化する傾向がある。一方で、問題が表面化してから取り組んでは一層遅れを取るテーマでもあり、迅速な着手が望ましいのは言うまでもない。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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