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CSRを巡る動き:第六次エネルギー基本計画“素案”が示す均衡解と課題

2021年09月01日 ESGリサーチセンター、新美陽大


 7月21日、資源エネルギー庁「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」第46回会合で、第六次エネルギー基本計画の素案が示された。このあと、パブリックコメントに付される政府案がまとめられると予想される。エネルギー基本計画は、日本の中長期的なエネルギー政策の方針を示す計画であり、2002年のエネルギー政策基本法の制定以降、概ね3年に1度の周期で見直しが行われている。

 今回の改定は、折しも脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向けた議論が国際的に高まるなか、どのような内容が示されるかが、これまで以上に大きな関心を集めるものとなった。

 素案の内容については、メディアや識者がさまざまな見解を示している。ただ、いずれにせよ、艱難辛苦を経て辿り着いた、目標達成のための「均衡解」といえることは間違いないだろう。エネルギー基本計画を端的に表現すれば、様々なエネルギー供給のための手段を組み合わせて、エネルギー需要を満たす方法である。その組み合わせの前提条件とされているのが、いわゆる「S+3E」である。具体的には、我が国におけるエネルギー政策は、まず安心(Safety)が根幹を為し、そのうえで安定供給(Energy Security)、環境(Environment)および経済性(Economy)を満たすべきとする考え方を指す。エネルギー供給の手段は数多く有り、需要を満たす方法も無数に存在するが、S+3Eを前提条件とすることで「均衡解」が導かれるといえよう。

 しかし、このような解の求め方は、総じて「総花的」となる。今回の素案についても、現状で想定しうるエネルギー供給技術や施策が総動員されており、その結果、争点が見えづらくなったことに対する批判も見受けられる。ただ、そもそも国のエネルギー政策は「総花的」傾向を持たざるを得ない。S+3Eに基づけば、あるエネルギー供給手段だけに依拠することはリスクを高めることに他ならず、バランスを重視せざるを得ない。

 残された課題は、エネルギーの供給安定性と経済性を両立するための具体策であろう。今回のエネルギー基本計画見直しに当たっては、これまでと比べても議論が難航しているとされるが、その大きな理由は「脱炭素」にある。政府目標として示された「2030年に2013年比46%減」という温室効果ガス排出量の目標値が、S+3Eの中でも極めて厳しい条件となったのだ。その解として、再生可能エネルギーの導入目標値を大幅に引き上げたうえで、「再生可能エネルギーの主力電源化」を謳っている。ところが、大量導入の対象としたのは、太陽光発電や風力発電などの気象条件によって発電量が変わる「変動電源」である。変動電源による電力を安定させるため、何らかのバックアップ電源が必要で、現状では火力発電が担っている。しかし、脱炭素の観点からは火力発電だけに頼ることはできず、電力系統の増強や蓄電池の設置などが必要となり、結果的に追加的コストの発生が免れない。このような変動電源の大量導入をハッキリ打ち出すなら、従来のS+3Eに「供給安定性」(Energy Stability)を加えたうえで、誰が・どのようにコストを負担するかの議論に真正面から向き合わなければならない。

 現在示されているエネルギー基本計画は「素案」であり、未だ議論は続くことになる。エネルギーは、私たちの生活や産業の根幹を担うインフラに他ならない。私たち自身がどのような裨益を受けられるのか、またどの程度のコストを負担することになるのか、自らの10年後あるいはその先を見据えて、他人事で終わらせない世論喚起が必要である。

本記事問い合わせ:新美 陽大
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