2021年7月中旬、世界のESG投資残高を集計しているGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は、隔年で発表している報告書(Global Sustainable Investment Review)の2020年版を公表した。今回で5度目となる調査は、GSIAが欧州、米国、カナダ、豪州/NZ、日本の5地域の機関投資家を対象としたものだ。それによれば、2020年の世界のESG投資総額は全体で35兆3千億ドルに達した。2018年の総額からは15%、2016年の総額からは55%の増加となる(図表参照)。
なお、35兆3千億ドルという数字は、調査対象となった機関投資家の全運用資産98兆4千億ドルの35.9%にあたる(2018年は33.4%)。つまり、全運用資産の3割以上が、GSIAが定めるESG投資の分類に該当するということになる。昨今、脱炭素、人権配慮、取締役会における多様性確保など、ESGの多様な側面に注目が集まる中にあって、GSIAが示す世界の統計も、多くのメディアから参照されるようになった。だからこそ、35兆3千億ドルという値では見えない中身について、どのような量や質の変化があったかを簡単にまとめたい。
地域別に見ると、全体の成長と裏腹に、一見減速して見えるのが欧州だ。2018年から13%減の12兆170億ドルとなった。この原因はタクソノミーの設定やサステナビリティ開示基準の厳格化の影響によって、前回の調査時にESG投資の分類対象としていた一部の資産が除外されたことに起因する。よって、前回との比較は意味をなさず、欧州のESG投資が減速しているわけではない。対照的なのは米国で、いずれも2018年から4割以上の成長を見せた。特に公的年金基金や保険会社によるESG投資残高の増加がその成長を支え、2018年から42%増の17兆810億ドルとなった。次に日本を見てみよう。2020年は前回から34%増の2兆874億ドル(約310 兆 392 億円)となった。国内ではJSIF(日本サステナブル投資フォーラム)によって毎年ESG投資残高が集計されているが、前年2019年は、約336兆円396億円であり2020年より多い。回答機関数が増え、ESG投資が成長しているはずだが、この現象は「株価の下落」によるものが大きいという。更にGSIAの統計では米ドル換算されており、為替レート変動にも米国以外の総額は影響を受けていることになる。つまり、数字に関しては単純な増減で判断せず、その背景を知ることがより深い理解につながる。
ESG投資の手法別に見ても、変化があった。GSIAではESG投資手法を7つの分類に分けている(本稿では詳細は省く)。そのうちの一つ、「ESGインテグレーション」では、投資の意思決定プロセスにおいて、ビジネスモデルや財務諸表の分析に加え、ESG分析も体系的に組み込む手法だ。前回から44%も増加し、25兆195億ドルとなった。一方で割を食ったのが「ネガティブスクリーニング」という手法だ。環境・社会へのネガティブな影響を抱える特定業種・商慣習を続ける企業を投資対象から除外する伝統的な手法といえる。2018年には統計上最も多かった手法だが、今回は欧州の基準見直しの影響も受け、24%減となった。
総額への関心が高いのはやむを得ないが、少しでも中身を知ると、次回2年後の調査結果においても見るべき視点が変わってくるのではないか。例えば、次回の調査では、2020年からの世界的なCOVID-19の影響を見ることができるかもしれない。また、GSIAの巻末に付帯していた調査対象地域以外の情報を読むと、次回は中国やアジア、南米などの地域が追加される可能性もある。少し先の未来を見れば、ESG投資の割合が5割を超えるのも時間の問題かもしれない。その時には非ESG投資残高がカウントされるようになるだろう。少し前に大ベストセラーとなったFACTFULNESS(ファクトフルネス:日経BP)の肝は「事実に基づいて世界の見方を拡げる」だったが、まさにそれに通ずる統計に進化していくことを期待したい。
出所:GSIA
GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。