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JRIレビュー Vol.9, No.93

カーボン・プライシングをどう導入するかー家計等への影響分析と導入に向けた課題

2021年08月16日 蜂屋勝弘


2020年10月の所信表明演説で菅総理大臣は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという、いわゆるカーボン・ニュートラルの実現を宣言した。その達成に向けて、新たな省エネ技術の開発等の技術革新を中心に、財政や税制等で後押しする方針が示された。その一方で、日常の企業活動や消費者の生活において、温室効果ガスの排出量が従来よりも少ない生産方法や商品、生活様式等が選択されるよう、いかに企業や消費者の行動変化を促して社会全体の脱炭素化を実現するかが模索されている。そのための方策として活用が検討されているのがカーボン・プライシングである。

カーボン・プライシングとは、温室効果ガスの排出を、経済活動に伴うコストとして金額(炭素価格)で“見える化”して課すことによって、企業や消費者が排出量の少ない生産方法や商品等を選択するよう行動の変化を促す仕組みである。主な方法として、炭素価格を政府が決める「炭素税」と、市場で決める「排出権取引」がある。

カーボン・ニュートラルを実現するには、省エネ投資や研究開発といったコストの発生は不可避であり、それを国民全体で負担する必要がある。その際、カーボン・プライシングを導入することで、①企業が排出量を削減する際の選択肢が拡大する、②政府収入を財源にした政策対応が可能になる、といったメリットが生まれる。

わが国では、すでに炭素税が「地球温暖化対策のための税」(温対税)として既存の石油石炭税に上乗せして課せられている。しかしながら、カーボン・ニュートラルを実現する炭素価格として、国際エネルギー機関(IEA)が示した水準には大きく及ばない。仮にIEAの炭素価格をわが国に当てはめると、温室効果ガス排出量を「2013年度対比46%削減」しても、削減後の排出量に見合う負担額は11.6兆円と計算され、既存のエネルギー課税分を除いても、9兆円程度の負担増になると計算される。

一定の前提のもと、この炭素価格をわが国で導入した場合の産業への影響を試算すると、石油製品、石炭製品、電力、ガス・熱供給といったエネルギー供給産業に加え、鉄鋼や化学製品といった素材産業を中心に製品価格に大きな上昇圧力がかかるとみられる。また、家計への影響を試算すると、生活必需品である「光熱・水道」の価格が大幅に上昇するため、低所得層の負担増が相対的に大きくなる。

カーボン・ニュートラルの実現には、温室効果ガスの排出コストを国民一人ひとりが認識し、広く国民全体で納得したうえで負担することが求められる。ゆえに、消費者に近い最終需要段階で導入することが理想的ながら、それにはすべての財・サービスの製造から販売等に係る温室効果ガス排出量、輸入品を含めて機動的に把握する必要があり、現時点では現実的と言い難い。

このため実際には、①化石燃料消費に対する炭素税課税や、②排出量の多い産業・企業を対象にした排出権取引を導入することが現実的である。ただし、企業や家計に相当な負担が求められる可能性があることから、排出量削減と経済への影響の双方を睨みながらの段階的な導入に加えて、政府収入の使途について、企業の研究開発や省エネ投資等に限らず、所得再分配にも充てる等、家計負担増に配慮することが必要である。この点、わが国における既存の炭素税である温対税を拡張する場合には、温対税が含まれる石油石炭税の使途を、現在の特定財源から一般財源化も含めて拡大することが課題である。
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