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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.82

習近平政権のサプライチェーン戦略ー「自立自強」の実現可能性とリスク

2021年08月16日 三浦有史


米バイデン政権が作成した報告書では、アメリカ単独でサプライチェーンの問題に対処することは出来ず、同盟国・友好国との協力により脆弱性を克服するとされた。一方、習近平政権は、供給遮断に供給遮断で対抗する「反撃力」と、供給遮断を思いとどまらせる「抑止力」を獲得することを目指している。

3月の全国人民代表大会で採択された「第14次5カ年計画」では、イノベーションを起点とするサプライチェーンにおける優位性が覇権の帰趨を左右するという考えが示された。中国は、先進国で進む脱「中国依存」にも揺るがない自立的な経済発展、「自立自強」に自信を深めている。

中国は通関ベースだけでなく、付加価値ベースの貿易統計をみても世界貿易に占める割合がアメリカを上回る。背景には、国内付加価値率が上昇したことがある。中国は外部からの供給遮断により生産が行き詰まる可能性が大幅に低下した。

周辺アジア諸国では、中国依存度が高まった結果、中国から必要な製品が輸入出来なくなる、あるいは、中国市場から締め出されるリスクが高まり、「政冷経熱」といった政治と経済を分けて捉える特殊な二国間関係が形成されるようになった。これは中国が南シナ海において大胆な行動を採る一因となっている。

習近平政権の「自立自強」は思惑通りに進んでいるとはいえない。世界で安定調達が争点となっている半導体の自給率が目標を大幅に下回るなど、中国の半導体産業は外資および輸入依存度が高く、アメリカよりもサプライチェーンの安定性が懸念される状況にある。

「自立自強」の実現可能性も低い。付加価値ベースでみると、中国の製造業輸出はアメリカの2倍であるが、サービス業輸出は5分の1の規模しかない。中国は輸出に占めるサービスの割合が低く、製造業の高度化が進んでいない。背景にはサービス業が規制によって保護されていることがあり、製造業高度化の道のりは遠い。

中国の知的財産権等使用料の貿易収支は293億ドルの赤字で、その規模は世界最大である。知的財産権等使用料の比較優位をみると、中国の知的財産を生み出す力が日米より弱く、「知財強国」はもちろん、「知財大国」と呼ぶのもはばかられる状況にある。

中国の経済発展は急速に拡大したグローバル・バリュー・チェーンに積極的に参加することによって実現したものであり、「自立自強」によって実現したものではない。「自立自強」は、世界最大の製造業の集積と、規模と成長性の両方を備えた消費市場という中国の特徴を生かすことにつながらず、経済面だけでなく、外交面でも失うものが非常に大きい。
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