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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.82

メイク・イン・インディアの新展開とその「落とし穴」

2021年08月16日 熊谷章太郎


2014年9月以降、インド政府は「メイク・イン・インディア」をキャッチフレーズとする製造業振興キャンペーンを展開しており、様々な分野でビジネス環境の改善に向けた改革を実行してきた。しかし、①大胆な制度改革に伴う一時的な経済・社会の混乱、②コロナ禍を受けた経済活動規制と景気悪化、③製造業にとって重要な生産要素である土地と労働に関する改革の停滞、などを理由に、インドの製造業は政府が期待するペースで発展していない。こうしたなか、政府は輸入規制の強化や補助金政策の拡充を通じてテコ入れを図ろうとしている。この結果、スマートフォン製造では産業集積が進みつつある。もっとも、以下の3点を踏まえると、同様の動きが製造業全体に広がる可能性は低いと判断される。
 
第1に、輸入規制の強化は組立型輸出産業の競争力を低下させる。中国との近接性やRCEP(地域的な包括的経済連携)協定への署名などを背景に、中国に代わる欧米向け輸出の拠点としてはインドよりもASEANが注目を集めている。インドの輸入規制の強化は企業のASEAN志向を強め、かえってインドの製造業の発展を遅らせかねない。

第2に、財政赤字問題がある。様々なビジネス上の課題が残存するなか、政府が補助金給付を軸に外資を呼び込み、製造業を発展させるには、補助率の引き上げ、適用対象の拡大、付随条件の緩和などを含む補助金制度の一段の拡充が必要である。一方、コロナ禍で財政状況は大幅に悪化しており、補助金制度の拡充に必要な予算の確保は容易ではない。コロナ禍が収束に向かえば、政府は景気浮揚よりも財政健全化を優先する姿勢を鮮明化にし、各種補助金の削減圧力を強めると見込まれる。

第3に、既存のビジネス上の課題が解消されていない。土地収用の円滑化に向けた改革が停滞するなか、今後も土地収用問題が物流インフラや工場の建設を阻害する。労働については、複数の労働関連法を統合・簡素化した新法が施行された後も、複雑な州独自の規制への対応や厳格な解雇規制が企業の労務管理上の課題となり続ける。

現在の製造業振興策の行き詰まりを背景に、先行きインドは政策の見直しを迫られるだろう。現在の政策スタンスを一段と先鋭化させるのではなく、経済自由化への方針転換や本質的なビジネス環境の改善に向けた改革に注力するよう、わが国企業・政府はインド政府に対して働きかけていくことが期待される。



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