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リサーチ・フォーカス No.2021-023

台湾情勢緊迫化と高まる半導体リスク― 半導体供給停止の場合、アジアを中心に付加価値が年88 兆円減 ―

2021年08月06日 野木森稔


台湾は新型コロナ感染拡大下による脆弱性に加え、電力不足や自然災害といった問題を抱えるほか、台湾海峡を巡る米中対立の激化などの地政学リスクに直面している。世界の半導体生産の中心地である台湾で、これらのリスクが顕在化した際には、世界的な半導体ショックとなる可能性がある。

台湾の半導体産業は、近年、世界におけるシェアを大きく拡大させている。特に最先端ロジックの生産に強みを持ち、スマホやコンピュータ向けに重要な部品を供給している。台湾の半導体企業は主に米国籍企業と取引しているが、台湾半導体を利用した製品の製造拠点は中国や東南アジアに集中しているため、アジア圏での関連産業の付加価値や雇用の創出に大きな影響力を持つ。

自然災害や軍事衝突といったリスクが顕在化した場合、台湾の半導体産業は生産停止に陥る可能性がある。それによる世界経済への影響は、1 カ月停止の場合は付加価値の減少は約7兆円、1年続けば約88兆円(世界GDPの1.0%)にのぼると試算される。産業別では、スマホやコンピュータなどを中心に電子製品産業への影響が大きく、同産業だけで付加価値が年58 兆円減少すると見込まれる。国別では、中国と米国で失われる付加価値額が大きく、GDP 比ではベトナム、マレーシアといった国が大きい。この試算は一次的影響しか勘案していないが、実際にそうした事態に陥れば半導体不足が電子製品の供給不足を招き、通信業や情報サービス業など製造業以外へ二次的影響が広がる可能性が高い。

台湾でのリスクが高まるなか、先進国は半導体産業の自国・地域への誘致を積極化しており、大規模な政府予算を投じる方針である。しかし、①高コストの先進国へ大規模な生産拠点の移転が実現する可能性は低い、②仮に移転が決まっても生産稼働には時間を要する、③台湾政府は半導体の生産拠点の移転には消極的、といった理由で、世界経済が台湾半導体への依存度を大きく下げることは容易ではない。台湾の半導体産業は様々な供給停止リスクに囲まれているだけに、生産拠点となる中国や東南アジアの電子製品産業に大きな影響が及ぶ可能性に警戒が必要である。


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