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アジア・マンスリー 2021年8月号

中国本土証券市場への海外資金流入と強まる逆風

2021年07月29日 野木森稔


中国は資本規制緩和を進め、対内証券投資の増加に成功した。しかし、米中対立の先鋭化、米国の金融政策正常化といった逆風は強まり、中国当局はさらなる投資受け入れ拡大の正念場を迎えつつある。

■シンガポールや欧米の投資家が中国向け証券投資を積極化
先進国を中心に中国との緊張関係が高まるなかでも、世界から中国本土への証券投資は大きく増加している。中国の対内証券投資残高は2021年1~3月期に2.0兆米ドルと、新型コロナ前の2019年10~12月期から+39.7%増加した。IMF「Coordinated Portfolio Investment Survey」(最新値は2020年6月)によれば、近年、シンガポール、米国、EUからの中国向け証券投資が大きく増加していることが示されている。日本からの投資も債券を中心に小幅ながら増加している。こうした動きは、①中国当局による資本移動規制の緩和に加え、②海外投資家の資産運用における中国証券の積極採用と、③過剰流動性下で運用難の余剰資金流入に支えられている。

■中国本土市場へのアクセス改善が海外投資家の中国投資を後押し
中国では、資本移動規制の緩和が進められており、海外から本土市場へのアクセスが限定されながらも、改善している。特に、香港経由で中国本土証券を取引する仕組みが整備され、2011年4月に導入された株式市場のストック・コネクトに続き、2017年7月には、債券市場でボンド・コネクトが導入された。2015年に海外投資家向けに中国銀行間債券市場(CIBM)ダイレクトスキームが導入されているが、ボンド・コネクトが加わることで、アクセスがより容易となった。さらに、中国本土証券の取引資格を持つQFII(適格海外機関投資家)とRQFII(人民元適格海外機関投資家)に対する投資限度枠が2020年に撤廃された。資本移動に関する当局への報告手続きなど、事務手続きの煩雑さは依然として残っているものの、利便性は大きく向上した。

海外投資家サイドの事情もある。各国中央銀行の外貨準備では、人民元建て資産総額が2021年1~3月期に約3,000億米ドルと全体の2.5%に膨らんでおり、この大部分が中国国債で運用されているとみられる。IMFが中国での金融市場自由化の進展を評価し、2016年10月に人民元をSDR構成通貨に加えたことが発端となった。さらに、2019年以降、運用ベンチマークとなる主要債券指数で中国国債や政策銀行債が採用されている。近年、世界の年金基金などでこうした指数と連動するパッシブ運用が増加していることが、中国証券市場への投資資金の流入を促している。元々、中国の債券市場は十分な市場規模と高い信用格付けをもち、市場アクセスの改善がこれをさらに後押しした格好である。実際、2020年末の債券発行残高は18.6兆米ドルと日本の14.7兆米ドルを超え、S&Pの国債格付けはA+と日本と同格である。株式指数でも、2018年6月にMSCI新興国株式指数に初めて中国本土株(A株)が組み入れられた後も、FTSE(2019年6月開始)やS&Pダウ・ジョーンズ(2019年9月開始)でも相次いで組み入れられ、中国本土株式市場への資金流入を加速させている。

海外の余剰資金膨張の影響も大きい。先進国を中心に大規模な金融緩和で軒並み金利水準が低下しており、中国の国債利回り(10年物で3%前後)の魅力が相対的に高まっている。日本でも低金利下での運用難を背景に、大手保険会社などが中国債券投資を増やしていると報じられている。

■強まる逆風、中国証券市場の本格的な開放に向け問われる当局のかじ取り
しかし、この先、①米中対立の先鋭化、②米国の金融政策正常化、が中国証券市場の海外からの投資受け入れにとって逆風となる可能性がある。

米国は中国人民解放軍と関係があるとされる中国企業への投資規制を強めている。株式指数の算出会社は、該当する企業を2020年12月に指数から除外している。対象企業の規模はまだ小さい(MSCI新興国株式指数でウエートは0.28%分)が、今後、影響が大きくなる恐れがある。さらに、人権問題への関心が高まっていることも、中国投資への規制や、中国企業への投資選別を加速させる可能性がある。

加えて、米国では金融政策が徐々に正常化に向かっている。そのなかで米金利が上昇すれば、中国本土に流入した資金の巻き戻しを促し、人民元へ下落圧力がかかるとみられる。その際、2015年の人民元ショック時のような資本流出への懸念が高まる可能性もある。中国当局もそうした資本流出の動きを十分警戒しているため、海外からの中国への投資受け入れには積極的である反面、中国から海外への投資促進にはやや消極的である。実際、QDII(適格国内投資家)による投資限度枠は残り、ボンド・コネクトの南向き投資(中国本土投資家による香港での債券売買)は今年になってようやく開始される見込みとなっている。仮に資本移動規制を強化(市場アクセスにおける取引制限の導入など)するような事態になれば、海外投資家が不利益を被ると見込まれる。海外からの証券投資残高は人民元ショック時の2倍を超えるだけに、規制強化は中国証券市場の信用に大きなダメージを与える可能性が高い。

海外との投資資金の行き来を拡大することは、中国経済の今後の成長だけでなく、人民元の国際化を推進する意味でも重要である。海外投資家にとって魅力ある自由な資本市場を形成するうえで、こうした逆風は中国当局にとって大きな試練となろう。
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