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【北京便り】
中国の全国統一炭素排出権取引市場が始動

2021年07月27日 王婷


 7月16日9時15分、中国の全国統一炭素排出権取引市場は取引を開始しました。2015年9月に、国務院が全国統一炭素排出権取引制度を導入すると公表してから6年、2017年に、国務院が「全国炭素排出量取引市場建設計画」を発表し全国統一炭素排出権取引市場の建設を宣言してから4年、という年月が経ってのことでした。

 最初の取引は、取引が開始してから2分後に成立し、合計16トン、トン当たり52.78人民元の価格で、合計790万人民元が取引されたとのことです。オープニング価格の48元/tより約8%高い取引だったと報道されています。初日の全体の取引は、410.40万トン、トン当たり平均価額は51.23元で、成約した金額は2.1億元だったとのことでした。申能集団、華潤電力、中国華電集団、中国石油化工集団、国家能源集団、国家電力投資集団、中国華能集団、中国石油ガス集団、中国大唐集団、浙江能源集団などの企業が初日の取引で成約したといわれています。

 全国排出権取引の場所は、2カ所あります。上海にある全国統一炭素排出権取引所と武漢にある全国統一炭素排出権登録取引所です。全国炭素排出権取引所では、CEA(Carbon Emission Allowance)、CCER(China Certified Emission Reductions)などの取引が行われます。取引システムは、上海環境能源取引所、上海連合所有権取引所が取引システムの構築と運営を担当しています。ただ、将来、全国統一炭素排出権取引システムが稼働した後は、そちらへ移行するといわれています。武漢で設立した全国統一炭素排出権登録取引所では、排出権の登録、清算、CCERの配分を行います。

 全国排出権取引市場は、まず発電部門の2,163社を対象としています。これまで取引対象となる電力企業が2,225社と報道されていましたが、当初では63社が間に合わなかったようです。その理由については、申請材料の不備や、CEAが確定できなかったからだといわれています。今年4月に生態環境部は全国排出権取引所が6月25日に開始すると明言していましたが、結局、3週間遅れの開設となったのは、上記の理由とも関連するといわれています。

 排出権取引の方式について、中国の排出量の上限となる排出枠(キャップ)を設定し、キャップを割り当てられた事業者間で余剰排出量や不足排出量を売買することができる「キャップ&トレード」と呼ばれる制度です。排出権は、協議譲渡、入札など方法で行われます。協議譲渡には、また、下記のような二つの方法があります。
①リスト協議取引。1回の売買での最大申告量はCO2換算で100,000トン以下とし、取引価格は前の取引日の終値の±10%の間で決定される。
②大口協議取引。1回の売買での最低申告量がCO2換算で10万トン以上とし、 取引価格は、前の取引日の終値の±30%の間で決定される。

 取引の時間帯は、平日9:30~11:30、13:00~15:00です。入札で取引する場合、取引の時間帯は別途取引所より公告で決められるとのことです。
 取引が義務付けられる対象については、初期は電力セクターの企業に限っていますが、今後、石油化学工業、化学工業、建材(セメントを含む)、鉄鋼、非鉄金属、製紙、電力、航空などCO2排出量が多い主要産業に拡大する予定です。また、取引主体は、現在は企業を中心としていますが、今後は個人やその他機関も視野に入れるといわれています。

 全国統一排出権取引所以外に、中国では、CCERの取引も行う計画です。ただ、CCERの認定や価格メカニズムについて更に議論を深める必要があるため、2017年以後、政府はCCERの登録を停止してきました。それでも、全国統一排出権取引所の運営が軌道にのれば、CCERの取引も再スタートするでしょう。

 2011年10月、北京、天津、上海、重慶、広東、湖北、深センの7つの省・市がCO2排出量取引のパイロット事業地域に指定され、2013年以降、7つの地方取引所が次々オンライン取引を開始しました。これらの地域においては、排出削減を効果的に推進するとともに、システムの構築、人材の育成、経験の蓄積を行い、全国統一市場の構築に結び付いたといえるでしょう。2021年6月までで、7つの地域で3,000社以上の企業が取引に参加し、累積割当量は、CO2換算で4億8,000万トン、取扱高は約114億元に上ったといわれています。

 全国統一取引市場の開設にともない、今後地方取引所では、電力セクターの企業が参加せず、その他のセクター企業がこれまで同様の取引が行われるものの、徐々に全国統一市場へ移行する計画となっています。中国政府の試算によると、全国排出権取引所の対象となる電力企業の排出量が40憶トンを超えると、今後、その他の業種が加える予定となっています。最終的には、中国の排出権取引の量が80億トンになると試算されており、中国は世界最大の排出権取引市場を有する国になることは間違いがありません。世界一の排出権市場になる見通しです。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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