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自動運転導入には需要家目線が重要 ~まちづくりの出発点となる移動手段の迅速な事業化~

2021年07月13日 武藤一浩


 1970年代頃に全国で計画的に開発された、いわゆるニュータウンでは、住民の急激な高齢化によって「移動」が大きな問題となってきています。免許を返納し、生活の足であったマイカーを手放す住民が増えているからです。
 近年、こうした「“オールド”ニュータウン」化に危機感を抱く住民自身によって、住民自治の力を活用しながら地域内の移動手段の確保を目指す取り組みが全国各地で始まるようになりました。住民が自らの手で自主的に移動手段の運営にかかわり、移動車両、運転手、予約業務や資金の確保まで、地域交通事業者などと連携して整備する試みです。
 こうした取り組みで課題となるのが、車両運行の安全・安心の確保です。運行サービスを住民主体で行うと、交通事業者とは異なり、安全・安心の確保が運転を担う個々人の判断や感覚に依存することになってしまいます。ニュータウン、つまり住宅地内だけといった近距離を低速で運行するのに高度な運転技術は必要とされませんが、安全・安心な運行の基本概念への理解と安定した運転技術がなければ、持続性ある事業にはなりにくく、許認可も円滑には取得できません。
 そのため、住民主体で行う運行サービスの実現には、安全運行を実現できる自動化の技術を取り込むことが非常に重要となります。国も、「ラストマイル自動運転車両システムのガイドライン」を策定するなど、地域の移動手段確保を後押しする手段として、自動化技術の導入に積極的です。

 自動運転における、車両運行の安全・安心の確保には、車両自体の技術的安全性が必須ですが、そればかりでなく、道路の特性に応じてリスクを評価し、それぞれ対応方法を定義し実装していかなければなりません。
 道路の特性は、それこそ無数に存在するため、リスク評価だけでも膨大な作業量となります。しかし、計画的に整備されたニュータウンの道路の場合、直線や十字路、T字路といった道路の特性のバリエーションはそれほど多くないため、道路をブロック単位に分割して特性を定型化すればリスク評価を実施しやすい傾向があるのも事実です。そこで、この道路ブロック単位でリスク要因を特定し「部品化」していけば、ニュータウンの運行ルートにおけるリスク評価を格段に速く進めることができます。
 運行ルートにおけるリスク評価に続いては、リスクへの対応方針の整理を行うことになります。ここで、特に重要なのは、リスク要因への対応順序です。
 日本総研では、自動化技術の導入プロセスの共通化を目的として、民間企業約20社と協力して研究(※ ニュースリリース『ラストマイル自動移動サービス「地域への実装」の研究会を設立』(2020年11月4日))を行っています。その活動のなかで、道路ブロックごとのリスクを特定していくと、一般車両による事故が毎年発生する交差点など、構造自体の危険性が非常に高い道路があることも分かってきました。そうした危険性の高い箇所を自動運転車両が走行できるようにするには、道路側にも車両側にも高度かつ高価な自動化技術対応が必要となってしまいます。
 しかし、車両やセンサーの性能に合わせて道路構造の方を予め改修してしまえば、最新の自動化技術を使わずに済むケースは多いと考えられます。そしてその方が、必要な自動化技術が簡易かつ安定的になり、結果として実装を早期化させやすくなります。つまり、一定以上の危険性を持つ道路では、インフラ側へのセンサーなどの整備や車両への自動化技術の導入の前に、道路の工事・改修を実施するべきと考えます。

 自動運転を活用した移動サービスを実現させる過程においては、いかに最新の自動化技術を導入するかに目を奪われがちになります。しかし、本質はあくまで交通事業であり、事業化の検討は「いかに技術と費用を現実的にまとめ、移動手段を維持させるか」という交通事業者による需要家目線から行う必要があります。上記で道路改修からの実装を提案したのも、その発想からです。
 また、住宅地を走る「ラストマイル」自動移動サービスの構築は、交通事業者に加え住民という需要家の主体性が必要となる点で、「まちづくり」の出発点になるともいえます。まちづくりは、一企業だけでも一自治体だけでも実現は難しいことは明らかです。既にバルセロナなど欧州の先進的な都市では、官民連携による交通の在り方を大きく変えることからのまちづくりに取り組み始めています。日本でもそうした取り組みが広がることが望まれます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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