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JRIレビュー Vol.9, No.93

カーボン・プライシングの導入に関する諸外国の取り組みとわが国への示唆

2021年06月29日 根本寛之


2015年のパリ協定採択後、諸外国が2050年の「カーボン・ニュートラル(温室効果ガスの排出を全体として向けて動きつつある。わが国においても、2020年10月に菅総理が2050年にカーボン・ニュートラルのゼロ)の実現」に実現を目指すと宣言した。その鍵を握るとみられるのがカーボン・プライシング(CP)である。

CPは排出された炭素がもたらす経済的なコスト(社会的費用)を見える化し、炭素を排出する企業や家計に負担を求める制度である。主な制度として「炭素税」と「排出権取引」が挙げられる。炭素税は政府が価格を決め、それに応じて排出量が調整されるのに対して、排出権取引は政府が排出量の上限を決め、それに応じて価格が決定される。ただし、どちらの制度にも一長一短がある。実際、諸外国の導入状況をみても、①主に炭素税のみ、②主に排出権取引のみ、③その両方、という三つのパターンに分けられる。

わが国でもすでに、全国規模で炭素税が課されているほか、東京都と埼玉県では排出権取引も導入されている。もっとも、炭素1トンの社会的費用は少なくとも4,000円程度と試算されているにもかかわらず、排出量の約6割には650円以下のCPしか課されていない。すなわち、炭素排出主体が、随伴する社会的費用を十分に負担することなく炭素を排出していることを意味する。このように、わが国におけるCPの現状は、気候変動対策としての効果がごく小さいものにとどまっている。したがって、2050年カーボン・ニュートラル目標を達成するためには、CPの実効性を高めることが必要となる。

ただし、CPの本格導入に際しては、CP導入国で炭素排出が削減されても、非導入国での炭素排出が助長されるという「炭素リーケージ」に注意が必要である。最近ではEUやアメリカにおいて、CP非導入国からの輸入に炭素価格相当額を追加的に賦課する「国境炭素税」の導入を検討する動きがみられる。これは“形を変えた関税”であり、保護主義的な貿易活動につながるとの懸念が広がっている。もっとも、世界一律の炭素価格が導入できれば国境炭素税は不要なはずであり、わが国としては、そのための国際的な合意形成に積極的に寄与することを通じて、炭素リーケージの発生回避に向けた対応に貢献すべきである。

諸外国におけるCPによる税収の使途をみると、一般財源を含めて様々である。地球温暖化対策に積極的に取り組むEUでは、CP税収の6割強が気候変動対策に充当されている。一般的に、CP税収が気候変動対策に活用される背景には、環境に優しい新技術の発展による経済成長を促し、炭素価格の実質的な高額化をできるだけ回避するという考え方がある。

わが国においても今後、CPを本格的に導入することができれば、その税収をいかに活用するかは重要な論点の一つとなる。補助金を用いて気候変動対策を後押しする場合には、そもそも政府による補助金は非効率になりやすいこともあり、補助金が適切に配分されるよう、排出削減効果と費用を考慮した制度設計が求められる。
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