コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

価値を問い直す時代のUXデザイン

2021年06月22日 今泉翔一朗


 業界問わず、DXの検討や実装が進められています。そこでは、モノやサービスの「価値」を改めて考える場面が増えてきているのではないでしょうか。DXは、ITを使った業務の効率化ではなく、データを活用してビジネスのあり方や社会のあり方自体を変革することだと言われます。変革と言うからには、これまで提供してきたモノ、サービスを見直し、既存の枠組みを超えて、それらが実現する価値とは何であったのかを問い直す必要があるためです。

 たとえば、コマツの、「スマートコンストラクション」は、建設機械を単に販売するのではなく、そもそも顧客が抱える、安全に施工したい、少ない労働力で施工しなければならないといった価値や課題に対して、IoT技術や3次元情報を活用して解決策を提供する仕組みと言えるでしょう。
 また、B to Cの世界に目を向ければ、写真SNSアプリとして注目を集める「Dispo(ディスポ)」は、写真を撮った後、翌朝までその写真を見られない仕様としています。これは、スマホで写真を撮るときに、写真を撮ることに気を取られてしまい、その場を楽しむことを忘れてしまうという状況に対し、「その一瞬に生きる」ことを価値として提供しているサービスと言えます。

 では、どのようにしたら、価値と向き合い、ビジネスを変革できるのでしょうか。その一つのヒントとなるのが、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインです。UXデザインとは、ユーザーが製品・サービスを通じた体験から得られる価値を起点として、コンセプトを具現化していく手法です。UXデザインと聞くと、スマホアプリの使い勝手をよくすることだと思われることもありますが、本来的には、UXは、ユーザーの体験価値を起点としてコンセプトを具体化していく射程の広い概念なのです。

 UXデザインのプロセスは、①ユーザー体験価値仮説検証、②ソリューション仮説検証、③製品・サービス仮説検証の大きく3つの要素から構成されます。①ユーザー体験価値仮説検証は、コンセプトやビジネスモデルから想定されるユーザーに対し、インタビュー等を通じて、体験価値やそれが実現できない課題を深く洞察する行為です。②ソリューション仮説検証は、洞察した体験価値や課題を解決するソリューション(この段階では実現方法は問わない)の仮説を立て、シナリオ等を作成して、ユーザー検証を行うことです。③製品・サービス仮説検証は、ソリューションの実現方法や優先順位を含めて具体化することです。このとき、プロトタイプを作成して、ユーザー検証すると、さらに確度を増すことができます。

 特に、ユーザー体験価値仮説検証における体験価値の洞察が、その後の議論の鍵を握ります。可能な限り想定ユーザー1人ひとりにインタビューして、その人の話を聞く中で、その人の視点に立ち、現状や今後来るであろう社会や環境の変化を想像しながら、課題を洞察する。その技能が求められます。
製品・サービスを実現し提供した後も、体験価値の洞察を繰り返し行い、常に見直していくべきです。デジタル技術を活用して、提供するサービスの中で、ユーザーの行動データを収集し、ユーザーの体験価値を見定める仕組みを組み込めるかがポイントとなります。

 価値に向き合い、それを製品・サービス化していくUXデザインは、DXのみならず、サステナビリティの議論にも役立ちます。
 モノやサービスの生産に伴い引き起こされる気候変動や地球資源の限界に対して、生産のあり方や、私たちの生活様式自体の見直しが求められる中で、そのモノやサービスは本当に必要なのか、本当に得たい価値は何なのかを問い直す必要があります。個々人の内面にまで迫るような問いかけをし続けることは、UXデザインの本質であり、これからの時代にますます重要性を増していくことになるでしょう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ