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CSRを巡る動き:一次産業を含むフードチェーンに向き始めたサステナビリティの視線

2021年07月01日 ESGリサーチセンター、古賀啓一


 フードチェーン全体を眺めると、食品加工や小売といったフードチェーンの下流の業種と比べて、上流の農業では企業的経営主体が少なく、CSRという考え方が普及しませんでした。2020年農林業センサスによると、法人経営体を含む団体経営体は増加傾向にあるものの、全経営主体のうち約3.5%にとどまっています。このような状況下にありつつも、フードチェーン全体で地球環境問題に対応することを目指し、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定、2021年5月12日に公表しました。

 「みどりの食料システム戦略」では「SDGsや環境を重視する国内外の動きが加速していくと見込まれる中、我が国の食料・農林水産業においてもこれらに的確に対応し、持続可能な食料システムを構築することが急務」という認識の下、「生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」ことを目指すとしており、具体的な取り組みとして以下が示されています。

1. 資材・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷削減の推進
2. イノベーション等による持続的生産体制の構築
3. ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立
4. 環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進
5. 食料システムを支える持続可能な農山漁村の創造
6. サプライチェーン全体を貫く基盤技術の確立と連携
7. カーボンニュートラルに向けた森林・木材のフル活用によるCO2吸収と固定の最大化

 例えば脱炭素に関連して、農林水産省では2020年度に「フードサプライチェーンにおける脱炭素化の実践とその可視化の在り方検討会」を開催、TCFD提言を踏まえつつ、食料・農林水産業事業者向けに情報開示の必要性・内容を解説するシナリオ分析手順書の入門編を策定しました。今後、実践的な手順書を整備し、関連事業者の具体的な取り組みに繋げることが期待されます。

 ただ、本戦略がフードチェーン全体で地球環境問題に取り組む必要性を示し、取り組みを開始する契機となる点は意義深いと考えられる一方、「非常に前のめりな内容で国内の農業現場の実態から乖離している」とする声が出ているのも事実です。例えば戦略で示されているKPIのひとつである「有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)」にするとしている点について、農業全体の担い手が減少している中、実現の可能性は低いと指摘されています。事業者の努力だけでなく、国から生産現場への手当や、消費者側にもコスト負担への理解を醸成する必要があり、グリーン購入法のように国等の公的機関が率先して有機農産物の調達を進めるような仕組み作りも有効かもしれません。現状からの積み上げのみでは、確かに実現困難で、フードチェーン上の関係事業者から、こうした挑戦のために必要となる環境づくりを国等に求めていく必要があるでしょう。

 さらに、戦略策定の背景の一つである海外の動向についてみると、2021年には食料・農林水産分野に大きな影響を及ぼす環境関係の国際会議が多数予定されています。10月の生物多様性条約COP15では、我が国で開催されたCOP10で策定された愛知目標をレビューし、ポスト愛知目標が設定されるほか、土壌生態系と農業との関係についても個別テーマとして議論される予定です。消費者も含め、フードチェーン全体として、こうした農業と環境問題との関係性が海外では強まっていることを認識する必要があるでしょう。


本記事問い合わせ:古賀 啓一
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