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日本総研ニュースレター 2021年2月号

コロナ対策で変わる介護・高齢者ケア~デジタル化と地域・官民連携が経営も強化~

2021年02月01日 紀伊信之


 新型コロナウイルスの感染拡大は、対人サービスである 介護や高齢者ケアの分野に多大な影響をもたらしている。 経営に大きな打撃を受けた事業者も多く、重度化リスクの高い高齢者にケアを行う現場では緊張した状態が続く。他方、今回の事態で従来からの課題が顕在化し、遅々として進まなかった「改革」が前進しつつある側面も見えてきた。

コロナを契機に始まった介護業界のデジタル化
 他事業所との連絡手段として、電話とFAXが電子メールよりも使われる(人とまちづくり研究所調べ)など、極めてア ナログな介護現場にも、コロナ対策を契機にようやくデジタ ル化の兆しが見え始めた。例えば、令和3年度の介護報酬改定では、対面が原則とされたサービス担当者会議などを、オンラインで開催することが認められた。併せて、利用者が 同意する際の署名・押印も不要となり、文書管理もデジタル保存が可能とされるなど、制度上はデジタル化の素地が整うことになった。
 企業内研修や民間の各種勉強会などの教育や研修では、eラーニングの活用が進む。ケアマネジャー資格の更新研修でも、eラーニングを全国展開する整備が始まった。
 また、感染リスクを避けるため、家族との面会をオンライン面会に切り替える施設が増えたが、従来のオンラインツールは実際の面会に比べて臨場感に乏しい。そこで、ソニーグループの SRE AI Partners のテレプレゼンスシステム「窓」のような、「あたかも同じ空間にいるような自然なコミュニケーション」が取れるシステムの開発も進められている。
 介護施設職員から入居者の様子を伝える手段でもデジタル化が進む。例えば、ITベンチャーのケアコラボの介護記録システムでは、職員はスマホからSNS感覚で記録を付けられ、その情報は職員そして家族にも共有できる。家族は、豊富な写真や動画、職員のコメントを通じ、面会機会が減るなかでも普段の入居者の様子が確認できることなどから、コロナ禍において導入施設が拡大している。

BCP を見据えた事業所間の連携
 介護事業所では、職員や入居者に感染者が出た場合に、どのようにサービス提供を継続していくかが課題だ。令和3年度の介護報酬改定では、3年の経過期間後に、全ての介護サービス事業者に、「業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練の実施等」が義務付けられたが、中小企業が大半の介護事業者が個別に対応するには負担が大きく、災害や感染症への対応もマンパワー面で限界がある。そのため、有事の際には法人の枠を超えて職員や物品を 融通し合うといった、地域内での事業所間連携が必要だ。既に江戸川区ケアマネジャー協会や奄美大島介護事業所協議会など、民間主導のネットワークを構築する動きが各地で現れてきている。こうした活動は、採用活動や職員教育など有事以外も含めた連携に発展し、構造的に不足する介護人材の確保等にも役立っていく可能性を秘める。

多層化する高齢者の介護予防・孤立防止
 外出自粛によって、介護予防に効果的とされる運動や社会参加の機会が減った高齢者の健康への影響が懸念されている。国立長寿医療研究センターが 2020年1~4月に高齢者1,600人に行った調査では、1週間あたりの身体活動量は従来よりも3割減少したとされる。また、高齢者2,500人を対象とした調査(日本能率協会総合研究所 2020年10月実施)では、9割前後が「友人や知人との交流ができない・減った」と答えている。
 そうしたなか神戸市は、ITベンチャーの Moffとのウェアラブルデバイスを活用したオンライン運動プログラムの実証、リハビリ支援ソフトのリハブフォージャパンとのデイサービス利用者向けオンライン会話・運動体験の実証、NTT西日本との高齢者向けeスポーツの実証など、民間との連携による高齢者のフレイル予防に注力する。堺市も阪急阪神グループと在宅でのフレイル予防を始めるなど、同様の官民による取り組みは全国で広がりつつある。
 スマホを利用する高齢者も増加するなか、デジタルを活用した交流や運動の機会を作る取り組みは、コロナ収束後も広がっていくだろう。
 他の業界と同様、コロナは介護や高齢者ケアの世界が従来から潜在的に抱えていた課題や脆弱な部分をあぶりだした。行政、民間ともにこれを機ととらえ、改革・変革を加速させることが、今、求められている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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