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JRIレビュー Vol.8, No.92

欧州経済見通し

2021年08月06日 井上肇、高野蒼太、栂野裕貴


ユーロ圏経済は、2020年10〜12月期、2021年1〜3月期と2四半期連続のマイナス成長となった後、春先から再び景気回復に転じている。2021年の後半にかけては、これまでの活動制限で積み上がった貯蓄が取り崩されるかたちでリベンジ消費が本格化するほか、アメリカ向けを中心とした輸出の増加と、ワクチンパスポートによるインバウンド需要の回復が景気回復のけん引役となる見通しである。インバウンド需要の回復は新型コロナでとくに大きな打撃を受けた南欧諸国に恩恵が大きい。もっとも、南欧諸国では、雇用・所得環境が相対的に悪く、コロナ禍後も南北格差は残ると見込まれる。

政策面では、EUの復興基金による資金供与が開始されることや、ECBがPEPP(パンデミック緊急資産購入プログラム)終了後も金融緩和姿勢を継続することが景気を下支えする見込みである。今秋のドイツ総選挙は、CDU党首のラシェット氏を新首相とする「黒緑連立」誕生がメインシナリオであり、現状の財政拡張スタンスが維持される公算が大きい。

イギリスでは、ワクチンの普及ペースや、コロナ禍における経済対策の規模がいずれも大陸欧州諸国を上回っており、夏場にかけてユーロ圏主要国を上回る力強い回復が見込まれる。こうした景気回復やインフレ率の上昇を受け、BOEは、2021年末にも追加の資産買い入れを停止する見通しである。

以上を踏まえ、景気の先行きを展望すると、ユーロ圏では、リベンジ消費やインバウンド需要の回復によって、秋口にかけて高めの成長となる公算が大きい。加えて、緩和的な金融政策や域内外の拡張的な財政政策が景気を下支えする。ユーロ圏経済は2022年初めに新型コロナ流行前の水準を回復し、その後もしばらくは堅調な回復が続く見通しである。国別にみると、南欧諸国は短期的には速いペースでの回復が見込まれるものの、雇用・所得環境が相対的に悪く、南北格差は残ると見込まれる。一方、イギリスは、急速なワクチンの普及や積極的な財政政策が功を奏し、2021年末にもコロナ禍前の経済活動水準を回復する見通しである。

リスクとして、環境規制の強化が急速に進むドイツで、経済が下振れる可能性がある。また、フランスでEU懐疑派のルペン大統領が誕生することで、欧州統合の深化が停滞する可能性もある。さらに、コロナ禍の支援措置で債務返済能力などが劣るゾンビ企業が増加すれば、中長期的に経済の効率性が低下する恐れがある。
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