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JRIレビュー Vol.7, No.91

コロナ禍の雇用・所得環境-女性に偏る悪影響とその背景

2021年05月28日 井上恵理菜


新型コロナウイルス感染拡大により、世界各国で雇用・所得環境が悪化し、日本でも非正規女性の雇用が大きく減少した。対人接触機会の減少により、宿泊・飲食などの対人サービス業で雇用が減少したが、こうした産業では非正規女性の割合が高いためである。属性別にみると、非正規割合の高い高卒以下の学歴の女性や世帯主の配偶者の女性で大幅な雇用・所得環境の悪化がみられる。マクロ全体でみると、失業や非労働力化を含め20%以上収入が減少した世帯は、雇用者世帯の1割に達していると推計される。

女性の雇用悪化は世界各国でみられるが、とりわけ日本では、男性と比べて女性の雇用悪化幅が大きい。その要因には以下の四つが挙げられる。一つ目は、他国に比べてコロナ禍で雇用が減少しやすい対人サービス業の割合が高く、かつそうした産業での女性の就業者が多いという、産業構造要因である。二つ目は、雇用調整されやすいパートタイムで働く女性が多いという、就業形態要因である。三つ目は、手続きの煩雑さなどから雇用維持策が十分に活用されていないという、政策要因である。四つ目は、外出制限で家庭内無償労働負担が増加したため、女性の非労働力化が進んだという要因である。

雇用・所得環境の悪化に対して求められる短期的な政策は、雇用維持策と所得支援策である。コロナ禍での経験を踏まえると、雇用維持策の利用拡大に向けて、手続きの煩雑さ、大企業での事業者負担の重さ、認知度の低さといった問題を解決する必要がある。また、有効な所得維持策の実行に向けて、各世帯の所得の現状を素早く把握するための行政インフラの整備が必要である。

一方、長期的な雇用・所得環境の改善に向けては、以下の三つの政策が求められる。第1に、今回のような経済ショックに起因する急速な産業構造の変化に対しては、就業訓練への財政支出の拡大を通じ、産業間の労働移動を円滑化することが必要である。第2に、不安定な非正規の雇用に対しては、非正規への待遇差別の禁止を厳格化するとともに、短時間正規労働者を増やすことが重要である。第3に、長時間労働を是正しつつ、男女間での家庭内無償労働負担の平準化を図り、女性の就業継続を後押しすることが望まれる。
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