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【グリーン】
地域の自律的電力インフラ確立と個々人が担う役割

2021年05月25日 七澤安希子


 脱炭素社会の実現及びレジリエンス向上には、大規模集中型の発電に依存するのではなく、再エネ電源をあらゆるところに分散設置し、災害時に大型の発電所が機能不全になった際にも分散電源を繋いで自立的に電力を賄える電力インフラの仕組みが求められている。近年、買取価格制度や設備コストの低減により、徐々に住宅の太陽光パネル設置が進み始めている他、蓄電機能を担いうる電気自動車を選択する人が増え始める等、個々人が再エネ電源設備や蓄電設備の所有者として、自律的な電力インフラの仕組みに関われる時代が近付きつつあることに注目したい。

 但し、再エネ電源は天候によって発電量が変動し需給調整が難しい。このため、自律的な電力インフラの構築には、複数の再エネ電源設備と蓄電設備を組み合わせて面的に管理する司令塔が必要である。来年から施行が予定されている配電事業ライセンス制度を契機に、配電網単位での面的な管理を行い、配電網事業者がその司令塔を担うことが可能になるのは、大きな前進である。配電事業ライセンスを取得するこれからの配電事業者は、単に配電網を運営管理するだけでなく、配電網域内の発電・蓄電のデータを集約し、状況に応じて都度需給調整を行うために再エネ電源設備や蓄電設備の所有者との協力関係を構築することが重要となる。

 ここで実現の鍵となるのが、設備所有者の協力を促すインセンティブの設計であろう。海外では、設備所有者である住民の需給調整協力を獲得するために、電気代削減というインセンティブを提供する仕組みが進められている。例えば、電力会社が太陽光パネルや電気自動車を有する住民に対して個別に、域内の電力不足となる時間帯の共有及び電気自動車に蓄積した電力の活用指示、安価な時間帯(深夜)の蓄電指示、余剰電力の販売など、アプリを通じて簡易且つ密にコミュニケーションを取りながら、協力した住民の月あたりの電気代を軽減させるインセンティブが現実のものとなっている。その結果、住民の中に地域の電力インフラの一端を担い脱炭素に貢献しているという意識が芽生え始めており、周辺住民にも波及していくことで電力インフラの更なる自立性を高めていくという道筋が展望できるのである。

 人口減が進む日本において脱炭素・レジリエンス社会を実現するには、地域内のリソースを最大限活用しながら電力の地産地消を進め、地域や住民が地域の新たな成長に積極的に関与していくようなエコシステムの構築が重要である。日本総研は昨年度からローカルグリッド研究会を立ち上げ、これからの配電事業者の役割や配電網域内の設備所有者との協力の在り方を具体的に検討している。これらの検討を通じて、これからの新たな地域社会の在り方を提示していきたいと考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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