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コロナ禍を契機に日本の公共交通の将来を改めて考える

2021年05月11日 逸見拓弘


 新型コロナの感染拡大は、全国各地の事業者に深刻なダメージを与えている。メディアでは、飲食店や小売・サービス店の経営難にスポットライトが当てられることが多いが、日常生活に不可欠な路線バスも経営の危機に瀕している。国土交通省は、毎月、「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」との表題で、業界への影響に関するアンケート調査結果を公表している [1]。この調査によると、一般路線バス事業では、Go Toキャンペーン実施中かつ行楽シーズン2020年10月を除いた全ての月で、過半数の事業者が「前年比20%以上の運賃収入減になった」と回答している[2]。また、2020年11月に(一財)地域公共交通総合研究所に公表した「公共交通経営実態調査報告書」では、52のバス事業者のうち11事業者が2020年度末には債務超過となる見込みと回答している。既に進みつつあるバス路線の減便・廃線が加速し、全国各地に陸の孤島が誕生することも、現実味を帯びてきている。

 そもそも、路線バス事業が経営難に陥ったのはコロナ禍に始まったことではない。国土交通省の資料では、一般乗合バス事業者の7割近くはコロナ禍以前から経常赤字の状況であり、その割合も年々増加傾向にあった[3]。コロナ禍による採算性悪化に関しては、特別な行政支援がされているが、この行政支援は一時的な問題解決にしかならない。根本的問題を解決するには、どのような解決策が考えるのか。

 欧州の交通政策が、1つの問題解決のヒントになる。欧州では、あらゆる公共交通は、行政府が公募入札を出す方式で運行事業者が選定される「運行委託制度」で運営されている。どちらかと言えば、行政サービスの色彩が強い。日本は、公共交通は独立採算制の営利事業とみなされており、大きく制度が異なっている。「運行委託制度」では、一般的には、費用面では行政府が必要なインフラの初期投資・維持費を負担し、交通事業者が運行に係る経費を負担する契約形態が採られる。それゆえ、交通事業者は、初期投資・固定費などの費用負担を抑えつつ、安定した収益を確保することが可能となっている。

 公共交通の「運行委託制度」のスキームは、ラストマイル自動移動サービスとの親和性も非常に高い。ラストマイル自動移動サービスは、定ルートを自動走行するサービスのため、その走行経路のインフラへの安全対策(交差点監視センサー、磁気マーカー、電磁誘導線、標識、看板、etc.)が重要となる。この安全対策の費用負担を誰が担うのかは、実装段階の課題となっている。交通事業者が、運行と自動運転車両の維持管理だけでなく、インフラ安全対策の維持管理も担うとなると、固定費負担が非常に大きくなり採算性確保が困難になってしまう。そもそも、公共性が高い道路に対し、民間事業者が営利目的で付帯物や設置物を整備しようとする場合、許可に高いハードルが存在する。この点からも、インフラ安全対策の整備は自治体に担ってもらう方が調整はスムーズに進むということになる。欧州の事例を見ると、実際、「運行委託制度」を採用しているフランスのルーアンでは、自動操舵バスの公共交通のサービスが実用段階に至っている。

 コロナ禍を契機に、欧州の公共交通の「運行委託制度」のノウハウを日本にも導入検討することには、コロナ禍以前から顕在化していた路線バス事業の採算性改善と、将来の自動移動サービス導入の両面から、大きな可能性を感じる。

[1]  国土交通省、新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について
[2]  (一財)地域公共交通総合研究所、「公共交通経営実態調査報告書」
[3]  国土交通省、令和元年度乗合バス事業の収支状況について


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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