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ポスト・コロナ時代の人材マネジメント ~ジョブ型 vs.メンバーシップ型の二項対立を超えて~

2021年05月10日 林浩二


1.クローズ型組織からオープン型組織へ
 新型コロナウイルス感染症の大流行によって、日常生活や職場における「人と人とのつながり」が大きなダメージを受けている。社員の個人プレーよりも組織の一体感・団結力に基づくチームプレーを得意とする日本企業の場合、コミュニケーション密度の低下は組織のパフォーマンス劣化に直結する懸念がある。
 しかし、現在の状況は必ずしも危機ではなく、内輪の一体感・団結力の維持・強化に血道を上げるクローズ型組織のマネジメントから、イノベーションを生み出すオープン型組織への転換を図る好機と捉えることもできる(図表1。詳細については、拙稿「テレワーク時代の組織マネジメントの在り方を検討する」を参照のこと)。
 本稿では、このようなオープン型組織を機能させるための人材マネジメントの在り方について検討してみたい。



2.個人の自律を促すための仕組みづくり

①職務内容の明確化
 クローズ型組織のマネジメントでは、必ずしも社員個々人の職務内容や役割を明確しなくても組織の運営が成り立つ。「以心伝心のマネジメント」により、細かいことは曖昧にしておいても、気心が知れたメンバー同士の密接なコミュニケーションによって互いに足りない部分を補い合うことで、組織の成果を達成できるからである。
 これに対し、オープン型組織では、組織内のコミュニケーション密度が低下する分、自立した「個」が自らの職務内容や役割をしっかりと自覚しておくことが不可欠となる。
 対応策として、ジョブ型雇用を採用する企業で一般的な職務記述書(Job Description)を整備すること等が候補として挙げられる。ただ、社員個々人の職務バウンダリー(職務の境界線)を過度に厳密にすると、社員同士が「それは私の仕事ではない」「職務記述書にはそのようなことは書かれていない」などと仕事を押し付け合う事態になりかねない。実際、欧米諸国などジョブ型を採用する企業では、古くからこの問題の発生が指摘されてきた。
 解決策として、近年、欧米では職務記述書の中に「職務固有の役割」だけでなく「職務外の役割」(チーム貢献や成長・育成、改善など組織全体に影響を及ぼす役割)を追加するアプローチが提唱されている(注)。わが国においても、ジョブ型に倣って職務内容の明確化を図りつつ、メンバーシップ型の要素を取り入れて組織全体への貢献も促す折衷的なアプローチが効果的といえるであろう。

②自律型の異動・配置
 オープン型組織では、いつもの顔なじみのメンバーではない多様な人々が知見を交わし合うことが重要である。そのためには、組織メンバーの固定化を回避すべく、配置転換を効果的に活用する必要がある。ただし、単に人材をミックスさせれば自動的に新たな付加価値が生まれるわけではない。シナジーを創出する確度を高めるためには、当事者の能力・適性や興味・関心に即した異動、すなわち、本人主導による自律型の異動・配置を実現しなければならない。
 ほとんどの会社では、配置転換と言えば100%が会社主導か、せいぜい、ごく一部を社内公募など本人主導の異動で補っている程度である。直ちに本人主導の異動を主流にすることはできないにせよ、社内公募制や社内FA制の適用要件を拡充するなど、自律型な異動・配置の割合を高めていくことが望ましい(図表2)。



3.組織外貢献へのインセンティブ
 オープン型組織では、社員が組織外に対して積極的に関心を示すようなインセンティブ設計も必要になる。
 たとえば、目標管理において、組織目標の達成以外への貢献(組織外貢献)を加点的にカウントする方法などが考えられる。加点評価であるから、目立った組織外貢献がなかったとしても本人の評価が減点されるわけではない。実際に組織外貢献がどの程度あったかは、360°評価(隣接する組織からの評価)を活用して確認するとよいであろう。

4.積極的なダイバーシティへ
 組織外だけでなく、「組織内」においても、多様なバックグラウンドを有する人材を組み合わせることが望ましい。
 CSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)を意識して消極的に実施する形ばかりのダイバーシティではなく、多様な人材が混ざり合うことによるマネジメント・シナジーの創出を意図した積極的なダイバーシティ戦略が求められる。

5.ジョブ型とメンバーシップ型を止揚した人材マネジメント
 最後に、近時のホット・トピックである「ジョブ型」との関係からオープン型組織の人材マネジメントについて検討してみたい。
 ジョブ型の雇用契約とは、職務(ジョブ)を媒介とした個人と組織の契約である。この場合、個人は組織そのものというよりも、ジョブに対してコミットする。会社側でも、ヒト(個人)そのものに対してではなく、職務(の遂行)への対価として報酬を支払う。このため、報酬はジョブに連動した「職務給」になる。会社からの一方的な命令による配置転換は原則として行われない。
 これに対し、メンバーシップ型の雇用契約の場合、間に職務(ジョブ)を挟まない個人と組織との直接的な契約となる。個人はジョブではなく組織そのものにコミットするため、一般に会社への依存度が高まり、配置を決める権限は会社側に留保される。建前としては従業員の能力に応じて報酬が支払われるが、実際には能力は目に見えず測定が難しいため、学歴・年齢・勤続などの従業員属性を能力の代理指標とした年功的な人事管理に陥りがちである(図表3)。



 オープン型の組織では、職務(ジョブ)の明確化や本人主導による自律的なキャリア形成など、ジョブ型に特徴的な人事管理が求められる。一方で、シナジー創出を意識した配置転換(本人主導だけでなく会社主導の配置転換を含む)や、自らの職務(ジョブ)を超えた組織外貢献を社員に求めるなど、メンバーシップ型に特徴的な人事管理も存続する。
 この意味で、ポスト・コロナ時代のオープン型組織では、「ジョブ型かメンバーシップ型か」という二項対立ではなく、これらを止揚した人材マネジメントが求められるのではないか。

(注) Baker, T. The End of the Job Description, Palgrave Macmillan, 2016

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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