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JRIレビュー Vol.7,No.91

わが国出生数急減の背景と少子化対策の課題

2021年04月26日 藤波匠


2016年以降、わが国出生数の減少ペースが加速している。2015年までの15年間は、おおむね年率▲1%の減少ペースであったが、2016〜2018年はおよそ▲3%に加速し、2019年に▲5.8%の大幅減少を記録した。2020年は▲2.8%にとどまったが、2021年にはコロナ禍の影響もあり▲6%減少の大台に乗る可能性がある。

その結果、2016年に初めて100万人を切ってからわずか5年で80万人を割り込む可能性も見えてきた。少子化といわれながら、1997年に初めて120万人を切ってから20万人減るまでに19年かかったことを考えれば、足元での急減ぶりの重大性を、安易に見過ごすべきではない。

少子化をもたらしている要因は、女性人口の減少や高齢女性の割合が高まるなど、構造的な要因によるところが大きいが、足元では出生率も下げ足を速めている。当面、構造的な要因が出生数の押し上げに寄与することは期待できないため、出生率を引き上げる以外、わが国の少子化に歯止めをかけることはできない。

長く出生数の下押しに寄与してきた婚姻率の低下は、近年結婚に前向きな若い世代が増えたこともあり、ようやく主たる要因ではなくなっていたが、コロナ禍が再び婚姻数を大きく押し下げようとしている。コロナ禍によって結婚・出産を後回しにするカップルや、経済環境の悪化などによってそれらを断念する若い世代が生じることによって、今後長期にわたりわが国出生数が下押しされることが懸念される。

わが国政府も無策だったわけではない。2009年に政権与党となった民主党は「控除から手当へ」を合言葉に、子育て世代に従前よりも手厚い現金給付制度である子ども手当を創設したが、当初の予定額まで予算を確保することができなかった。その後政権の座に返り咲いた自民党は、とりわけ待機児童対策(現物給付)に力を入れたものの、保育所の受け入れ枠が拡大した2015年以降に少子化が一段と加速している。子育て環境に優れているとみられるフィンランドでも、2010年以降出生率が急落しており、わが国のように、保育所の受け入れ枠拡大に力点を置いた現物給付重視の政策だけでは、少子化を食い止めることは難しいと考えられる。

加速度をつけて進む少子化の背景には、若い世代の経済状況や雇用環境の悪化がある。1967年以前に生まれた世代に比べて、1972年以降に生まれた世代は、男性正社員の年収が40歳代前半で130万円少ない。雇用も流動化しつつあり、とりわけ女性で、若いうちに職場などでのポジションやスキルアップを図ろうとする意識が強くなり、結婚や出産といった家庭生活よりも、仕事や勉学などの社会生活を重視する傾向が強まっている。こうした若い世代の意識の変化に沿った少子化対策が必要となる。

少子化対策のポイントは、若い世代が、仕事や勉学などの社会生活を優先させるあまり、結婚、出産、育児を含む家庭生活の構築に向けた将来設計を先送りすることのないよう、社会保障制度や子育て支援制度、雇用政策などの政策パッケージによって彼らのワーク・ライフ・バランスの向上を図るとともに、「社会全体で子どもを育てる」という雰囲気を醸成することである。

社会保障の面では、現在の児童手当の満額に相当する金額を、所得制限や年齢に関係なく、18歳までの子ども全員に支給する新たな児童給付制度(児童手当の修正、もしくは給付付き児童税額控除)を策定し、そこをスタートラインに、今後徐々に予算規模を拡充していくことを検討すべきである。これまでの少子化対策の流れから考えれば、多少高いハードルであるものの、少子化に歯止めをかけるためには、思い切った財政措置に向けた議論を避けるべきではない。
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