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CSRを巡る動き: オーシャンエコノミーか、ブルーエコノミーか

2021年05月06日 ESGリサーチセンター、村上芽


 2050年カーボンニュートラルを実現するための手段として、「ブルーカーボン」という言葉を以前よりも耳にするようになりました。これは、国連環境計画が2009年に最初に使った、海洋の生物が吸収・固定化するカーボンのことです。二酸化炭素の固定というとまず森林が思い浮かびますが、海洋でもそれが期待できるのです。具体的には、国内では干潟、藻場、マングローブ林による二酸化炭素吸収量が多いと言われています。
 また、日本でも洋上風力に関して、2030年までに1,000万kWの案件を形成するという目標が出てきたこともあり、「海」の経済的価値への注目が高まっています。
 ESG投資家のなかで、この分野で存在感があるのは、ノルウェー政府年金基金グローバル(GPFG、運用資産約10兆円)と、その実務を担う運用機関であるノルウェー中央銀行投資管理部門(NBIM)です。
 気候変動をはじめとする8つのテーマで投資先の情報開示評価を行っており、「海の持続可能性(Ocean sustainability)」もその1つとなっています。漁業、海運業、港湾、造船、油田開発、発電などのいわゆる海洋産業に加え、陸上の廃棄物処理や排水の多いセクターにも注目しています。
 また、投資家としての「責任投資レポート」では、投資先との対話(ダイアログ)を行ったかどうか、どのような企業が優れた開示を行っているかなどの検討結果についても報告しています。
 2020年中には、年間で152件の対話を行い、うち、24件が「海の持続可能性」をテーマとしたものでした。主な対話先として東遠産業(韓国の遠洋漁業企業、対話テーマは持続可能な漁業)、ニチレイ(日本の水産企業、対話テーマは持続可能な漁業)、ユーロナブ(オランダの石油輸送企業、対話テーマは責任ある船舶リサイクル)が例示されています。
 また、海の持続可能性の観点から優れた開示を行っている企業の例として、DS Smith(イギリス、包装資材) ケリング(フランス、アパレル)、サンフォード(ニュージーランド、水産品)、DFDS(デンマーク、海運・物流)、ニチレイ(日本、水産品)が挙げられました。
 このレポートでは「ブルー」ではなく「オーシャン」という単語が使われていました。海洋経済の潜在性を示したOECDの2016年の報告書でも「オーシャンエコノミー」が使われました。単に「オーシャン」といった場合には、従来からある海洋関連産業(漁業、石油・ガス、非鉄金属、造船、海運、観光など)すべてが入りますが、「ブルー」や「オーシャンサステナビリティ」といった場合には、気候変動などの環境問題や、漁船操業等における労働環境の確保などの意味合いも入るわけです。
 今後、海のもつ力への注目はますます高まっていくと考えられます。企業が対策と検討したり、情報発信を行ったりする際には、こうした呼び名や分類を踏まえた用語の選択を行っていく必要性があるでしょう。


本記事問い合わせ:村上 芽
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