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顧客データ活用に向けたデータ統合の進め方と注意点

2021年04月12日 井手健史


1.顧客データ統合の背景
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、多くの企業は対面での新規営業が困難で、新規顧客の開拓に難航している。そのため社内にある顧客データの重要性を再認識し始めている。またMA(Marketing Automation)のような顧客データを活用してマーケティング活動を自動化するデジタルツールは急速な発展を見せている。
 しかし、社内の顧客データの管理状況を見ると、事業別・業務領域別にシステム構築を進めた結果として、複数事業の顧客データがバラバラに存在し、多くの事業は統合管理できてない。また一つの事業だけをみても、顧客データが各システムやシステム外のExcelファイル等に点在している場合が多い。さらに急成長した事業に至っては、事業の成長速度にシステム整備が追い付いておらず、重要な資産であるはずの顧客データが蓄積されていない状況も多く見受けられる。
 そのような状況を打開し、社内に眠る顧客データを最大限活用するために、データ統合が必要になる。しかし、この手の取り組みは様々な要因により、活用されないデータが統合されただけで継続的に利用されず、失敗に終わるケースが多い。企業によりデータ活用の目的は様々であるが、今回は企業が顧客データを統合する際に、推奨する進め方と注意点について説明する。

2.顧客データ統合の進め方と注意点
 顧客データの統合を特定の部署が集中的に進める場合もあるが、顧客データに関連する組織は社内に数多くあり、組織横断的な調整が求められることや、企業の事業戦略や経営計画に沿って統合・活用による効果を最大限発揮するためにも、顧客データの統合は全社的なプロジェクトとして推進すべきである。
 顧客データ統合プロジェクトは統合・活用による目的を確実に達成するために、以下の実施STEPで進めることを推奨する。各STEPの内容とポイントや注意点を以下に説明する。



(1) STEP1. 業務とシステムの現状把握
 営業部署や本社のマーケティング部署、コールセンターなど、顧客データに触れる部署は多い。そのため各部署の現在の業務やその業務で顧客データをどのように使用しているかを、データ統合の検討に入る前に前提知識として現在の業務を整理、可視化し把握しておくことが必要である。
 また、現行システムの構成や柔軟性により、現行システムからのデータの抽出方法や抽出可能な範囲が異なり、統合後のデータの持ち方に制約を受ける。システムライフサイクルの観点からも、システムごとに改修すべきタイミングは異なる。統合対象のシステムが多ければ多いほど、短期的に実現可能なデータ統合の範囲は限定的となる場合が多く、事前に現行システムの制約事項などを洗い出し、現状把握しておく必要がある。

(2) STEP2. 目的の明確化と実施施策の立案
 営業部署とマーケティング部署は対立構造にあることが多く、どちらかが主体のプロジェクトとなるともう片方の部署からの反発が大きく、どこかの段階でプロジェクトが頓挫してしまうことがある。双方の部署のメンバーをプロジェクトに加え、営業部署とマーケティング部署双方が一丸となって、全社の事業戦略や経営計画に沿う目的や達成したい姿、そのために実施すべき施策を検討する必要がある。
 また、施策の一つとして、統合データが継続的に活用されるために、統合したデータの有効性の測定方法と評価、見直しのプロセスの設計を実施することを推奨する。

(3) STEP3. 統合後の業務具体化
 実施すべき施策が整理されると、統合後のあるべき業務の具体化が可能になる。業務を具体化すると収集すべきデータの追加やデータ粒度、精度の統一のために、必然的に営業部署の業務が追加となる場合が多い。ITを活用していかに営業業務を効率化するか、また追加となる業務の実施を営業部署と合意するかがポイントとなる。営業業務全体で効率化できる箇所を検討し、追加となる業務時間を効率化によって捻出することも必要になる。
 また、顧客データを全てシステムで自動統合できればよいが、統合元システムのデータの持ち方やデータ入力ルールが守られないことなど様々な要因で統合できないデータは必ず発生する。その場合に、どの組織でデータ内容を確認し、修正、再統合を行うかまで明確にしておく必要がある。

(4) STEP4. システム化計画の作成
 目的の達成のためには必ずしも全ての顧客データをいきなり統合する必要はない。顧客データ活用による効果とシステム構築・改修にかかる想定コストを元に、妥当なシステム化範囲や実施順序を明確化し、システム化計画を作成する必要がある。
 統合元のシステムの数が減れば、その分データ統合は容易になる。データ活用による効果だけでなく、システム集約によるコスト面の効果も踏まえて、短期的に統合する範囲と、長期的に統合する範囲を見極め、システム化計画の検討ができるとよい。

(5) STEP5. 製品、開発委託先の選定
 CRM(Customer Relationship Management)システム、SFA(Sales Force Automation)システム、DWH(Data Warehouse)システム、CDP(Customer Data Platform)システムなど、顧客情報管理やデータ統合を売りにするシステムは多い。製品によっても得意領域や保有機能が異なるため、最適な製品選定には知識や経験が必要となる。STEP3で具体化した業務を実現可能かという観点から各製品の特長を把握した上で最適な製品、開発委託先を選定する必要がある。
 また、製品のライセンス費用が利用者数で決まるもののほか、データ量で決まるものなど、ライセンス費用体系は様々であることから、予算、想定ユーザ数、想定データ量の観点からも対象の製品の絞り込みを行う必要がある。

3.おわりに
 本稿では、顧客データ統合のための実施STEPを説明したが、対立構造を生みやすい各部署をいかにまとめ上げ、合意を取りながらプロジェクトを推進していくかが、最も重要な点と考える。アフターコロナの時代、顧客データの活用が企業の生き残りには必須であり、データ活用が根付いている企業はすでにそのビジネスメリットを享受している。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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