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車椅子における座位保持等と身体拘束との関係性についての調査研究

2021年04月12日 石田遥太郎、高橋孝治、城岡秀彦、青木梓、清水優輝


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.本調査研究事業の背景
 介護施設に入所する高齢者の中には、加齢や疾病等による心身機能の低下等によってベッド上で過ごす時間が長くなっている場合や、椅子等に座る時間が減少している場合がある。こうした高齢者は、レクリエーションなどの社会参加の機会が減少し、場合によっては意識障害や廃用症候群をきたしてしまう可能性もある。
 このような高齢者に対して、椅子等に快適に座ることができるよう支援する個別ケア手法の一つとして、シーティングが考えられる。適切なケアの一環としてシーティングを実施することによって、本人にとって快適な座位姿勢がとれるようになり、日常生活動作が改善し、社会的な活動への参加が広がり、最終的には生活の質(QOL)の向上につながることが期待できる。
 しかし、介護の現場では、「シーティングとは何か分からない」「シーティングをどのように行っていけばよいのか」等と悩むことがあるという意見も聞かれる。椅子に座ることができるにもかかわらず、車椅子に座っている高齢者がいる介護現場等もある。

2.本調査研究事業の概要
 上記の背景を踏まえ、本調査研究では、本事業では、高齢者ケアにおけるシーティングの定義や意義、目的、プロセス、留意点等について、検討・整理を実施した。
 また、介護職員等を中心とした介護現場で働く方、高齢者の家族および実地指導を行う行政職員を対象として、シーティングの基本的な考え方を学び、本人や家族の生活の質(QOL)の向上を目指すことができるよう、「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」と啓発資料(リーフレットおよび研修用動画)を制作した。

(1)検討委員会の設置・運営
 事業の各種検討を円滑かつ効果的なものとするために、医療介護における安全管理や身体拘束、福祉用具等に関わる有識者からなる、「高齢者の適切なケアとシーティングに係る検討委員会」を設置・運営した。
 検討委員会は、事業の方向性や進め方、調査項目、調査結果の整理・活用、シーティングの定義や目的、求められるプロセス等の検討や高齢者のシーティングにおける手引きや啓発資料等の作成に関して、適宜確認・助言を得る場とし、合計5回実施した。

(2)高齢者のシーティングにおけるヒアリング調査
 シーティングや高齢者ケアに関する有識者に対するヒアリングを実施し、高齢者におけるシーティングの現状把握および課題、在り方等について、意見を伺った。

(3)高齢者ケアにおけるシーティングの定義等の明確化
 先行文献調査、ヒアリング調査、検討委員会での議論を踏まえ、高齢者ケアにおけるシーティングの定義や意義、プロセス等を整理した。

(4)シーティングに関する手引きの作成
 整理したシーティングの定義・意義・プロセス等に基づき、「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」を制作した。

(5)啓発ツールの作成・提供
 制作した「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」の重要な内容を抜粋・整理し、啓発ツール(リーフレットおよび研修動画)を制作した。制作にあたっては、ワーキンググループを組成し、適切かつ効果的な啓発ツールとなるよう作業を進めた。「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」およびリーフレット、研修動画は、都道府県、指定都市、中核市の高齢者保健福祉担当部署、およびシーティング関連団体に配布した。

3.本調査研究事業の成果

(1)シーティングの定義に関する整理
 先行文献調査をはじめ、ヒアリング調査や検討委員会での議論を踏まえ、高齢者ケアにおけるシーティングを「体幹機能や座位保持機能が低下した高齢者が、個々に望む活動や参加を実現し、自立を促すために、椅子や車椅子等に快適に座るための支援であり、その支援を通して、高齢者の尊厳ある自立した生活の保障を目指すもの」と定義した。

(2)シーティングの意義に関する整理
 高齢者ケアにおけるシーティングの意義を以下のとおり整理した。
・加齢や疾病等による心身機能の低下等によってベッド上で過ごす時間が長くなっている高齢者に対し、シーティングを実施し離床を促すことで、意欲の向上や、廃用症候群、嚥下障害、骨粗しょう症、褥瘡といった二次障害の予防につながる
・シーティングを実施し高齢者にとって快適な座位姿勢がとれるよう支援することで、本人の有する能力を引き出し、生活の質(QOL)が向上する
・シーティングの技術を活用して椅子やテーブル等の環境を整えることで、「椅子に座る」という生活の保障が期待される

(3)シーティングのプロセスに関する整理
 シーティングを実施するにあたっては、「まずはその必要性を検討し、アセスメントを実施した上で、計画を立案し、日々の観察を通して状況を把握し、PDCAサイクルを通してシーティング実施内容を変更していくというプロセスが重要である」と整理した。

4.今後の課題
 本事業の成果を踏まえ、高齢者ケアにおけるシーティングのさらなる普及が実現されるための課題として以下の項目が考えられる。

(1)高齢者ケアにおけるシーティングの事例調査について
 本事業を通して、高齢者ケアにおけるシーティングに関する基礎的な知識を整理した。しかし、介護施設や居宅・通所サービス等におけるシーティングの実態は明らかになっていない。椅子に座ることができるにもかかわらず車椅子に座っている高齢者がいる介護現場等もみられる。高齢者の体格に応じて椅子やテーブルの高さを調整し、食事が快適にとれるようになったケースなど、適切なシーティングにより高齢者の尊厳の保持やその人らしい自立した生活の支援、QOLの向上に寄与した事例等について、さらなる実態把握を行う必要がある。

(2)さらなるシーティングの促進のための取り組みについて
 本事業において、シーティングの啓発ツールとしてリーフレットおよび動画を作成した。介護施設等へのシーティングのさらなる普及を進めるためには、介護職員等を中心とした介護現場で働く方に対するシーティングに係る研修を実施することが求められる。
 研修プログラムとしては、シーティングに関する好事例の紹介、シーティングに係る多職種連携の実際、適切なアセスメント手法、実践的なシーティング技術、移乗(トランスファー)の技術、効果的な記録の付け方、特に慎重な判断を要するケースの対応方法等が考えられる。
 研修プログラム構築にあたっては、介護関連の他の研修との効果的な組み合わせや、シーティング関連団体等ですでに実施されている研修との連動性等について考慮する必要がある。

(3)障害者総合支援法に基づく補装具について
 障害者総合支援法に基づく補装具として市町村が支給決定した車椅子および付属品等を使用している障害者の方々がいる。重度の体幹機能障害がある脊髄損傷やALSの方々等も高齢化してきており、今後、介護施設等への入居を含めた介護保険サービスの利用が想定される。介護保険サービス利用時においても、シーティングとしてこれらの補装具を引き続き活用することについて、今後実態調査を含め検討していくことが求められる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】
【高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き】
【リーフレット「高齢者と適切なケアとシーティング 本人や家族の生活の質(QOL)向上を目指すために大切なこと】
【研修スライド「高齢者の適切なケアとシーティング(講義編)】

■講義編


■実践編


【問い合わせ先】
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
シニアマネジャー 石田 遥太郎
TEL:080-7938-4740  E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp
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