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地域ニーズを踏まえた専門職確保に向けた調査研究事業

2021年04月12日 紀伊信之、石塚渉、森下宏樹、城岡秀彦


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.本事業の目的
 高齢化の進展に伴い、医療・介護ニーズが高まる中、介護職をはじめとした専門職の人材確保の必要性が高まっている。今後、日本全体で急速な高齢者数の増加と労働人口の縮小が確実となる中、地域の専門職が「潜在労働力化」することなく、介護・医療の業界で活躍し続けることができ、事業者にとってもより効果的・効率的に人材を確保できる仕組みが求められている。実際、それぞれの地域や事業所等において、各種の取り組みが行われつつある。
 一方で、昨今、紹介・派遣会社への紹介・仲介料をはじめとした人材採用コストが経営を圧迫している事実も散見される。このことが、多くの介護・医療に関わる事業所の人材の確保を一層困難にしている可能性がある。
 こうした専門職の人材需給については、首都圏をはじめとする大都市圏、地方都市、中山間都市など、地域の特性によってその状況は大きく異なっている。地域の労働人口の動態や他産業の状況、地域内での事業所間での人材流動、紹介・派遣会社やメディアの影響力等が異なるためである。さらには、同一・近接した地域内においても、法人・事業所間での差が大きい場合もある。
 以上の状況を踏まえ、地域特性ごとに専門職確保の課題を明らかにしつつ、その課題を体系的に整理し、課題解決のための施策や手法を検討することが本事業の目的である。

2.事業概要
 本事業での実施内容は、以下のとおりである。

(1)専門職人材確保に関する先行研究の整理
 本事業を進めるにあたり、公開情報等から専門職の人材確保に関する先行研究を整理し、想定される課題を洗い出した。

(2)地域特性別人材の需給状況・確保施策に関する実態調査(ヒアリング調査)
 先行研究の整理等を基に、地域特性別人材の需給状況・確保施策に関する実態調査(ヒアリング調査)を実施した。
 その際、地域を類型化した上で、各地域において専門職が就業する事業者を主な対象としつつ、当該地域の人材需給状況の概況等を把握するため、必要に応じ自治体等も対象に加えた。

(3)離転職経験者に対する実態調査(アンケート調査)
 ヒアリング調査によって明らかとなった課題の要因等を定量的に把握するため、離転職経験者に対する実態調査(アンケート調査)を実施した。
 アンケート調査では、主に転職理由や転職先の選択理由、転職時に活用した情報収集媒体等について明らかにすることとした。

(4)地域特性別の人材確保に向けた課題の整理・今後の展望
 ヒアリング調査、アンケート調査を踏まえ、課題を整理し、今後、求められる取り組み等の展望について検討した。

3.主な事業成果

(1)ヒアリング調査結果の概要
①看護職×地方中枢都市型
 主に病院について、入職後数年での離職が多いため定着率が低くなっており、かつ都道府県外への転職によって人材の地域への定着が進んでいない状況。
 対応策として、近隣病院との連携構築によって人材確保を試みている病院もあるが、連携のための基盤がある地域・病院に限定されている可能性がある。なお、都心部ではこうした取り組みは見られなかったことから、人材確保の観点も含め、地方部の方が地域での施設間連携が進んでいることが推察される。

②看護職×地方都市型
 周辺に大都市がある場合には、人材が当該都市に吸収される傾向があるが、そうでない場合、転居を伴う入職者も存在する。
 人材の確保にあたり、地方中枢都市型と同様に一部の法人は近隣病院との連携構築によって人材確保を試みているが、連携のための基盤がある地域・病院に限定される可能性がある。

③看護職×都心郊外型
 人材確保の取り組みとして、都心部や地方都市と同様の施策を試みているが、都心郊外においては交通利便性に大きく依存し、不利な立地状況によって採用が難しいケースがある。

④看護職×都心中心型
 市内や区内のみならず近隣県からの採用ができている場合もあるが、競合もあり、充足しているとは言えない状況にあることが多い。
 なお、全体として、介護職と比較すると、看護職は転居を伴う転職のハードルが低いという傾向もうかがえる。

⑤介護職×地方中枢都市型
 特定の優良・大規模法人がある場合、人材が当該法人に集中し、その他の法人が淘汰されやすい傾向にある。
 介護職は看護職と異なり、転居を伴う入職は少ないことから、一般的に県外からの採用については待遇面での魅力が大きくなければ困難であると考えられる。
 自治体が積極的に旗振り役とならない場合、定着を含む地域の人材確保対策を一部の社会貢献の意欲のある法人に依存する傾向にある。

⑥介護職×地方都市型
 傾向は地方中枢都市型と同様。なお、自治体の積極性は地域によって一定のばらつきがあることが推察される。

⑦介護職×都心郊外型
 周辺地域との関係で平均賃金格差が大きい場合が多く、人材が周辺地域に流出する傾向にある。

⑧介護職×都心中心型
 地域内に多数の事業所が存在することから、転職のハードルが低く、他事業所や他業界へ流出してしまう場合が多い。
 他業界との賃金格差等によって、そもそも業界外からの採用が困難であり、外国人雇用を進める事業者も存在する。

(2)アンケート調査結果の概要
 看護職、介護職ともに、現在の職場に転職した際の情報収集手段が、三大都市圏とそれ以外で異なる傾向にあることが明らかとなった。三大都市圏では、民間職業紹介事業者を利用した割合が高く、ハローワークを利用した割合が低い。特に三大都市圏に居住する看護職は、複数の民間職業紹介事業者を利用し、また面接中の同席・履歴書添削といった綿密なサポートを受けている。地域特性を踏まえて人材確保手段を検討・実施する必要性が改めて確認された。
 転職時の情報収集手段は、退職時の就職先決定状況によっても差があることが明らかになった。前職退職時にすでに現職場への転職が決まっていた人材は、知人・友人・同僚の紹介・口コミが主な情報収集の手段の一つであり、ハローワークやナースセンターの利用は比較的少ない。対照的に、前職退職時に次の職場が決まっていない場合は、ハローワークやナースセンター、民間職業紹介事業者等を利用する傾向にある。人材への効果的なアプローチは、在職者と離職者で異なる可能性が示唆された。
 介護職と比較した看護職の特徴として、現職場のサービス種別や、転職前後でのサービス種別変化の有無によって、差がみられた項目が多いことが挙げられる。特に、前職と現職のサービス種別の変化の有無によって、民間職業紹介事業者に期待していることが異なることが明らかになった。サービス種別が変化しなかった看護職においては、「面接日程調整」「履歴書添削」「条件交渉」等、転職活動の伴走役としての役割を民間職業紹介事業者に期待している傾向にある。対照的に、サービス種別が変化した看護師においては、希望に合った複数の求人紹介等、情報提供手段としての役割を期待している。したがって、看護職確保を考える上では、地域特性のみならず、サービス種別ごとに施策や手法を検討する必要があると考えられる。

(3)課題の整理

①専門職確保における全体的な課題
 介護職・看護職、都心部・地方部を問わず、ハローワークやナースセンター等を経由した求人では法人が希望する人材が集まりづらく、民間職業紹介事業者を頼らざるを得ない状況であることが明らかになった。ヒアリングを通じて、民間職業紹介事業者への手数料が経営を圧迫しているという声も聞かれた。
 そのような状況の中、独自の人材確保の手段を試みている法人も確認された。SNSやブログ、地域祭り、出前講座等を有効に用いた対外的な情報発信、近隣法人との施設間連携、現職員からの紹介等、ハローワークや民間職業紹介事業者等に頼らないさまざまな工夫が行われている。
 一方で、民間職業紹介事業者に対する求職者側のニーズがあることも明らかとなった。特に、希望に合った複数の求人の紹介や具体的な情報提供、面接日程の調整や面接中の同席など、ハローワークやナースセンター等よりも手厚いサポートが受けられることへの期待が大きい。

②看護職×都心部における課題
 都心郊外部で交通利便性に欠ける法人においては、採用が難しく、民間職業紹介事業者を通した人材確保に頼らざるを得ない現状が明らかとなった。
 三大都市圏に居住する看護職は、民間職業紹介事業者を複数利用し、また面接中の同席・履歴書添削といった綿密なサポートを受けていることが多い。ハローワークの利用割合も、三大都市圏以外に居住する看護職より低い。このセグメントにおいては、民間職業紹介事業者の存在感が大きいことが示唆された。

③看護職×地方部における課題
 入職後数年での離職が多いことによって定着率が低くなっており、かつ都道府県外への転職によって人材の地域への定着が進んでいない傾向にあることが確認された。近隣病院との連携構築によって人材確保を試みている法人がみられるが、連携のための基盤がある地域・病院に限られる。
 三大都市圏以外に居住する看護職は、転職時にハローワークを利用している割合が高く、民間職業紹介事業者を利用した割合は低い。そのため、地方部における人材確保にあたっては、ハローワーク等公的な機関からのアプローチも有用である可能性がある。

④介護職×都心部における課題
 都心部においては、他業界を含む求人が地域内に多数存在することから、転職のハードルが低く、他事業所や他業界へ流出してしまう場合が多いことが明らかになった。また、他業界との賃金格差等によってそもそも業界外からの採用が困難であり、外国人雇用を進める事業者も存在する等、都心部における介護職確保の困難さが際立つ。
 一方で、知人・友人・同僚の紹介等を通して異業種から介護職へ転職している割合が地方部よりも高い傾向にあった。そのため、介護の魅力を効果的に伝える手段や仕組みを検討することによって異業種からの人材確保が促進される可能性が示唆された。

⑤介護職×地方部における課題
 地方部においては、前職場から30分圏内の職場に転職している割合が高く、その傾向は前職の職種を問わない。つまり、地域内で人材が還流しており、地域外からの人材確保に困難を伴うことが示唆された。看護職と同様に、人材確保にあたっては、ハローワーク等公的な機関からのアプローチも有用である可能性がある。

4.今後の課題
 上記で明らかになった求職者側のニーズや地域特性を踏まえると、今後は既存の仕組みに留まらない人材確保施策・手段の検討・実践が望まれる。そのためには、地域のニーズを踏まえた人材確保の効果的な取り組み事例についてのさらなる調査が求められる。また、それらの取り組みと地域特性との関係性について分析・考察し、他の地域への展開の可能性を検討していく必要があると考えられる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
 部長(シニアマネジャー) 紀伊信之
 TEL:080-1203-5178  E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp
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