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認知症に関する官民連携プラットフォームの普及に向けた調査研究事業

2021年04月12日 紀伊信之山田敦弘、高橋孝治、高橋光進、二宮拓太


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の目的
 令和元年6月に策定された「認知症施策推進大綱」では、「共生」と「予防」を両輪とし、身近な小売・金融・交通などを含めた「認知症バリアフリー」「バリアフリーのまちづくりの推進」が掲げられた。「高齢者の5人に1人が認知症」という状況においては、地域社会全体として、認知症の人を受容し、認知症になっても、生き生きと自分らしく暮らし続けられる環境を整備していくことが肝要である。
 そのためには、産官学が一体となって、暮らし全体にわたって、「認知症の人にやさしい」地域に向けた環境整備を行っていく必要がある。その「街づくり」においては、医療や介護の事業者にとどまらない、日常の暮らしを支える小売り・交通・金融・生活サービス等の幅広い事業者の主体的な参画が欠かせない。
 実際、各地域において、多様な民間事業者と連携し、「認知症の人にもやさしい街づくり」に取り組む動きが加速しつつある。
 本調査研究は、過去の老健事業での検討結果も踏まえつつ、「生活に密着する多様な民間事業者と連携した街づくり」を進めようとしている自治体に関する調査研究を行うものである。その中で、自治体が推進役となって「認知症にやさしい街づくりに向けた官民連携の取り組み」を立ち上げ、進める際の課題を整理する。
 なお、先行事例といえる京都府や福岡市での事例は参考となる部分が多いものの、自治体の規模や地域に立地する事業者の規模という観点で、一般的な規模の基礎自治体がベンチマークとして参考にすることが難しい面もある。従って、本調査においては、政令市規模ではない、一般的な規模の自治体での取り組みも調査研究の対象とし、なるべく多くの自治体・地域の参考となることを目指した。これらの先行自治体が、立ち上げや具体的な推進に向って実際にぶつかっている壁や課題、それらを乗り越える際のポイント等は、今後、各地域で進むことが期待される「認知症の人にやさしい官民連携での街づくり」へのヒントとなることが期待される。

2.事業概要
 認知症にやさしい地域づくりに関して知見を有する有識者、実務者からなる検討委員会を設置・運営した上で、下記を実施した。

(1)官民連携プラットフォームの取り組み実証
 福岡市および京都府について、自治体担当者と共同で、多業種における民間連携による具体的な取り組みを実施し、事例として調査を行った。

(2)新たなモデル地域の選定、関係者間の調整
 福岡市や京都府に加えて、人口10~30万人程度の一般的な規模の自治体においてモデル的に官民連携の取り組みを進めつつある地域として、福島県いわき市、神奈川県大和市を選定した上で、官民連携プラットフォームの立ち上げを共同で実施し、事例として調査を行った。

(3)官民連携プラットフォーム構築の指針・留意点取りまとめ
 モデル実証における取り組みのプロセスを通じて認識することになった、推進にあたっての課題や留意点について、他地域での展開の際のヒントとするための整理を行った。

3.主な事業成果

(1)各地域での取り組みの概要
①福岡県福岡市
 産官学&市民(当事者含む)による「認知症にやさしい街づくり」に向けた協議体・プラットフォームの一つである「福岡版認知症アクションアライアンス(DAA)」立ち上げを実現するための活動が行われた。
②京都府
 認知症にやさしいモノやサービスを検討し、実践するための、様々な企業による異業種連携の取り組みとして、令和元年度から「認知症にやさしい異業種連携協議会」を設置し活動を行っている。令和2年度は、50を超える企業が参画し、セミナー開催などに加えて、新しい認知症関連サービスを創造するワークショップ等が開催された。
③福島県いわき市
 認知症の人本人が参画する「本人ミーティング」に令和2年度より本格的に取り組み始めた。認知症の人同士の対話を通じて、明らかになった本人の希望を起点として地域の民間企業との連携が模索された。
④神奈川県大和市
 「認知症1万人時代に備えるまち」の次の展開として、認知症の人・家族の生活に即したサービスについて、民間企業との連携による開発を検討した。その中で、認知症の人の買い物を支援する観点からショッピングモールと連携する案が検討され、協議が開始された。

(2)官民連携を推進する際のポイント ~4自治体の取り組みからの示唆~
 本調査研究で取り上げた4自治体の取り組みから、「認知症に関する官民連携プラットフォーム」についての示唆として以下のような点が挙げられる。
①活動の理念・ビジョン
 長期的かつ多様な関係者が参画する取り組みとなることから、その指針となる活動の理念・ビジョン・考え方等を明確にしておく必要がある。
②本人の参画を促す仕組み
 認知症の人本人が参画することは理念上の中核であることに加え、企業が参加する動機にもなる。そのためには、認知症の多様性を踏まえ、多様な認知症の人(本人)が地域で参加する場・機会を充実させることが必要である。
③企業の参画を促す仕組み
 企業側の多様なニーズや認知症の理解度に合わせて、継続的な学びの機会を提供する、より実践的な支援を行うなど、多様な支援メニューが必要。特定に留まらず、多数の企業が参画し、相互に連携することで、「点」が結び付いた「線」や「面」として、認知症の人やその家族の生活を広く支えることを目指すべきである。
④本人・企業が出会う場
 両者の出会いの場を作ることは、単独企業に難しく、自治体やプラットフォームに求められる重要な役割の一つ。企業側の勉強会等に本人に来てもらうだけではなく、本人がいる場に企業が出かけていくアプローチもある。
⑤仲介者・支援者
 当事者の参加を促すには、仲介者・支援者が必要であり、地域の医療・介護従事者への期待は大きい。



4.今後の課題

(1)さらに多様な「連携モデル」の検討・実践
 今回調査を行った4自治体だけでも、活動の力点や進め方は異なる。生活に密着した民間企業との連携による認知症にやさしい街づくりを目指す事例もまだ少ない。引き続き、様々な規模・特性の地域におけるプラットフォームの立ち上げ・稼働におけるプロセスを注視し、示唆を積み重ねていくことが必要である。

(2)自治体・地域同士の学び合い・連携の促進
 各地域での取り組みを加速させていくには、地域同士が「学び合う」機会を作ることも有効と考えられる。「官民連携のプラットフォーム」の立ち上げや推進に関わる知恵・工夫・ノウハウを共有することに加え、そうしたプラットフォームや本人の声から生まれた実際のアイデア、製品・サービス、プロジェクト等の成果を共有することも意義が大きいと考えられる。各地域で進みつつある「官民連携」の取り組み同士の有機的な連携は、今後の大きな課題の一つである。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
 部長(シニアマネジャー) 紀伊信之
 TEL:080-1203-5178  E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp
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