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サービス付き高齢者向け住宅等における適正なケアプラン作成に向けた調査研究

2021年04月12日 紀伊信之齊木乃里子、森下宏樹、大内亘


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の目的
 サービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームは、合計の入居定員が50万人を超え、高齢期の「住まい」の重要な一角を占めている。建物部分と、介護保険サービスが別の契約になっており、「住まい」として、利用者が必要なサービスを選択できる一方で、事業者側は建物部分と介護保険サービスを一体運営するケースが多いため、入居者に対して過剰なサービスが提供される問題が指摘されている。
 こうした「住まい」で提供される介護保険サービスは、ケアプランに基づいて提供されている。したがって、サービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームにおいて提供される介護保険サービスが入居者の課題やニーズに応じた適切なものであるかどうかは、作成されているケアプランや、ケアマネジメントのプロセスが適正かという問題と置き換えることもできる。
 従って、良質なサービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームが増えていくためには、サービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームにおける適切なケアマネジメントのあり方が整理されなければならない。同時に、「適正なケアマネジメントを実施することが、入居者確保や人材確保を含めた全体の経営にプラスとなる」という理解・認識が、運営者・経営者に広がる必要がある。
 そこで、本事業では、良質なサービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームの拡充を目的として、ケアプラン作成並びにケアマネジメントの実態や課題を整理した。その上で、サービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームにおける適正なケアプラン・ケアマネジメントのあり方について、事例に基づき、検討・整理を行った(以降、サービス付き高齢者向け住宅および住宅型有料老人ホームを総称し、「高齢者住まい」と表記)。

2.事業概要
 高齢者住まいに関する有識者や実務者等で構成したワーキンググループを設置し、「適正なケアマネジメント」について検討を行った上で、下記を実施した。

(1)ケアプラン作成・ケアマネジメント実態調査(ヒアリング)
 高齢者住まいにおけるケアプラン作成・ケアマネジメントの実態および取り組みの実践例を把握するため、介護事業者の本部および現場のケアマネジャーに対してヒアリング調査を実施した。

(2)ケアプラン作成・ケアマネジメント実態調査(アンケート)
 高齢者住まいにおけるケアプラン作成・ケアマネジメントの実態および課題、取り組みの実践例等を把握するため、高齢者住まい職員および高齢者住まいに関わるケアマネジャーを対象として、アンケート調査を実施した。

(3)「サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームにおける適正なケアマネジメントのヒント」(仮)の作成
 各種調査結果およびワーキンググループにおける検討等を踏まえ、高齢者住まいにおけるケアプラン作成・ケアマネジメントに関する留意事項や実施のポイントについて整理した冊子の作成に着手した。

3.主な事業成果

(1)アンケート調査結果
 アンケート調査結果については、「適正なケアマネジメント」(=利用者本位のケアマネジメント)を実践できているかどうかの認識に着目し、主に以下①~③の観点から整理を行った。

①何をもって利用者本位(寄り添い)と答えているか
「入居者本位」(寄り添い)ができているどうかで実施状況に差が大きいものは、以下の項目であった。
・住まい側からのケアマネへの情報提供全般
・自立支援・重度化防止への取り組み
・利用者の強み・できることに着目したケアプラン作成
・他法人のサービス提案やケアプランへの組み込み、他法人からの情報収集
・ケアプランの本人への説明、理解、家族への説明
・インフォーマルサービスの情報提供・提案
・ケアマネ自身による日々のアセスメント 等
 逆にケアマネジメントで起こり得る問題として、以下のような実態が明らかとなった。
・別法人ケアマネに対する「住まい運営法人の介護サービス利用を限度額一杯にしてほしい」という運営法人からの要請は約25%に上る。
・「利用者本位にできていない」という層では、「ケアプランが画一的」「必要なサービスがプランに位置付けられていない」「限度額一杯まで設定」「住まい運営法人のサービス優先」となっていることが多い。
・上記の問題の背景は、主に、「運営法人からの指示・指導」によるもの、加えて、介護人材不足からくるものである。

②利用者本位(入居者一人ひとりに寄り添った)のケアマネジメントの実践についての認識はどうなっているか
 大多数は「実践されている」と答えているが、ケアマネジャーの1割前後は「実践されていない」という認識を持っている。
 「実践されていない」という層は、株式会社に限らず、社会福祉法人や医療法人でも存在している。住まい職員の回答における「実践されていない」の割合は、「30~100棟運営」の多拠点展開の法人でやや目立つ。

③利用者本位(寄り添い)であることの効果や、そうでないことの影響として何が考えられるか(利用者本位のケアマネジメントが高齢者住まいの運営・経営に与える影響)
 n数が少なく一部は参考値ではあるが、入居率が高い住まいほど利用者本位のケアマネジメントが実践できていると認識している割合が高くなっており、「適正なケアマネジメント」と入居率との相関が示唆された。
 また、「利用者本位のケアマネジメントができている」という住まいほど、「介護職員の定着」等の運営上の課題が少ない。逆に「利用者本位のケアマネジメントができていない」という自己評価になっている住まいでは、「介護職員が定着しない」「入居率が低い」「ケアプランの家族等への説明が難しい」「医療的なケアが必要なケアマネジメントが難しい」等の各種の問題が発生していることが分かった。このことから、「適正なケアマネジメント」と住まいの課題の発生状況との相関も示唆された。
 上記から、「適正なケアマネジメント」を実践することは、入居者ひいては職員の満足度の向上につながり、その結果として入居率向上や離職防止等の経営上のポジティブな効果をもたらす可能性が示唆される。

(2)運営者事業者・ケアマネジャー・住まい職員等向けの啓発冊子の作成
 上記の調査結果を踏まえ、高齢者住まいの運営に関わる各主体に対して、利用者本位の考え方を中核に据えた「適正なケアマネジメント」について共通理解を促すべく、「サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームにおける適正なケアマネジメントのヒント」(仮)という冊子の作成に着手した。ワーキンググループで検討された「サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームにおける適正なケアマネジメント」のポイントを整理しつつ、アンケートやヒアリングで得られた事例を盛り込み、サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームの運営に関わる多職種にとって示唆となるものを目指している。冊子の主たる内容として想定するものは、以下の通りである。

<冊子に掲載予定の主な内容>
・「適正なケアマネジメント」が住まい運営にもたらす効果
・サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームにおけるケアマネジメントの原則
・住まい(サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホーム)特性を踏まえた適正なケアマネジメント実践ためのプロセス別ポイント
・「適正なケアマネジメント」に向けた人材育成や組織作りの工夫

4.今後の課題

(1)「適正なケアマネジメント」の実践に関するさらなる実態の把握
 今回の調査研究は、あくまでサービス提供側の認識として「適正なケアマネジメントが実施できているか」と問うものとなっている。住まい職員やケアマネジャーが実践できていると認識する「適正なケアマネジメント」が、入居者・家族の目線から見て「適正」なものかは明らかになっていない。入居者・家族からの評価を含め、サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームにおけるケアマネジメントについては、より踏み込んだ実態把握が必要である。

(2)入居者・家族向けの啓発
 高齢者住まいにおけるケアマネジメントをより良いものにしていくためには、本調査研究で着手した供給サイドに対するさらなる啓発が必要であるとともに、需要側である入居者・家族向けの啓発も極めて重要になると考えられる。入居者・家族が、高齢者住まいや介護保険、ケアマネジメント等についての正しい知識や理解を得ることによって、入居者・家族の目線からも、「ケアマネジメントが適正に行われているか」をチェックできるような環境を作っていくことが求められる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
 部長(シニアマネジャー) 紀伊信之
 TEL:080-1203-5178  E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp
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