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アフターコロナのシステム導入―ますます注目を浴びているローコードプラットフォームの活用についてー

2021年04月09日 神山和大


 従来型のプログラミング言語による「コーディング中心のプログラム開発」に代わり、「複雑なコーディングをしないソフトウェア開発」を実現するローコードプラットフォームが注目を集めている。代表的な製品としては、OUTSYSTEMS(OutSystems)、PowerApps(Microsoft)、Lightning Platform(Salesforce)等が挙げられる。
 本稿では、ローコードプラットフォームについて、概要・特徴のほか、普及が進んだ背景、2021年度以降の市場の見通し、建設業における活用の提案等について整理する。

■ローコードプラットフォームの概要・特徴
 ローコードプラットフォーム(LCDP; Low-Code Platform)とは、2014年頃から米国フォレスター・リサーチ社により広められたもので、「最小限の手作業によるコーディング、最小限のセットアップ、訓練、およびデプロイへの先行投資でビジネスアプリケーションを迅速に提供できるもの」と定義されている。特に、新型コロナウイルス感染症によって働き方改革が重視される昨今のビジネス環境においては、業務改革の切り札的な存在として注目が集まりつつある。
 ローコードプラットフォームの主な特徴としては、次の4つが挙げられる。
①ビジュアルモデリング
 コーディングに代わり、ビジュアルなモデリングによってプログラムを作成できる。ドラッグ&ドロップ操作で画面上に必要な設定を行うことでプログラムが可能。
②拡張性
 各製品は、さまざまなAPIを介して外部システムと自由に連携できる。また、メジャーなOS、データベースに対応しており、大企業の基幹システム開発に適応できるスケーラビリティとオープンアーキテクチャー、そしてカスタマイズ性などの拡張性がある。
③ライフサイクルマネジメント
 ローコードプラットフォームではアプリケーションの開発だけでなく、「データベースとの自動接続、テスト、本番環境へ自動デプロイ、稼働管理、変更管理など開発工程から運用工程」まで、ライフサイクル全般をサポートする機能を提供できる。 
④再生利用可能なコンポーネント
 高機能なコンポーネントやサービスを組み合わせてプログラムを素早く作成できる。データベースと連携して画面上にデータを配置するコンポーネントや、IoTやAIと連動するようなものまで多くの種類のコンポーネントが準備されている。
(フォレスター・リサーチ社、”New Development Platforms Emerge For Customer-Facing Applications”,2014より日本総研作成)

 これらの特徴を具備しているローコードプラットフォームであるが、その開発環境について簡潔に述べると、「企業の各利用部門のユーザーが業務に必要なアプリケーションを、複雑なプログラミング言語で開発をすることなく、各自で作成することができる」のが大きな特徴である。ローコードプラットフォームでは複雑なプログラムが不要となるため、ヒューマンエラーの抑止につながり手戻りが少なくなることに加えて、単体テストについてもシステムで自動実施できるのが大きなメリットである。

■新型コロナウイルス感染症を契機にローコードプラットフォームの普及が進んだ
 従前から、ローコードプラットフォーム自体は各企業で利活用されており、概念的には新しいものではない。では、「なぜ、近年注目を集めているのか?」と言えば、2020年から猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症によって、多くの企業の働き方が変わったことが大きな理由と考えられる。
 特に、大企業を中心に、オフィスへの出社を必要としないフルリモート型、リモートとオフィス出社の双方を行うハイブリッド型等のように、多様な働き方が認められるようになった。当然ながら、多様な働き方が認められるようになると、それに応じた形でスピード感を持って業務フローやシステムの見直しが必要になる。このようにスピード感を持った形でシステムを導入・改修することは、従来のいわゆるERP(Enterprise Resource Planning)システム等のような製品では実現が難しかった。ローコードプラットフォームでは、前述したような4つの特徴を活かして利用部門のユーザーが約1カ月程度という短期間でアプリケーション導入・改修を行うのが一般的である。
 いくつかの企業ではすでに導入済みとなっているローコードプラットフォームではあるが、今後の働き方の変化によって、2021年度以降もローコードプラットフォームの導入が加速していくのではないか。

■2021年度以降:ローコードプラットフォーム市場の見通し
 ポストコロナの働き方について、日本労働組合総連合会(2020)が実施した「テレワークを行っている1,000名に対してのアンケート調査」によると、「今後もテレワークの継続を望む」という回答が全体の8割以上を占める結果になった。このことからも、コロナが収束したときにコロナ以前の働き方へ完全に戻るということは考えにくく、むしろテレワーク環境はある程度残るものと考える。
 このように、今後も働き方の一つの選択肢としてテレワークが企業へ定着するのであれば、ガートナー社のレポート(2021)でも示唆されているように、対面でのコミュニケーションが取りづらくなったテレワーク環境下では、スピード感を損ねることなく円滑にチーム間での情報共有や意思決定を行うことが重要となるため、そのような新しい働き方に併せて柔軟にシステムを導入・改修することが求められることになる。したがって、今後もローコードプラットフォームが一般的な社会的・技術的なムーブメントとなり、著しく継続成長していくことになるものと考えられる。同社のレポート(2021)によれば、ローコードプラットフォームの市場規模は表-1に示されるように、2021年には売上高が2020年から30%近く増加して約58億ドルに達すると予想している。



 また、コロナ禍で存在感を示したローコードプラットフォームについては、「2021年度末までに世界的に著名な企業が何らかの形でローコードプラットフォームを採用することになるであろう」とも予測している。

■建設業におけるローコードプラットフォーム活用の提案
 では、どのような国内企業での採用が見込まれるのか。筆者は、一つの例として建設業界でローコードプラットフォームが活用できると考える。
 筆者の経験から、建設業は「現場のデジタル化」があまり進んでいない場合が多い。具体的には、各現場の勤怠管理、作業内容、配車状況等の書類を紙で記録し、一日の業務が終わったタイミングで事務所に戻り、紙の書類で記録した内容をPCへ打ち込むということが多く、作業員にとっては大きな負荷・手間となっている。他方、管理者の立場からも各現場の進捗状況等がタイムリーに確認できないため、「システムからリアルタイムに状況を確認したい」「紙での記録を止めることで、現場の負荷を低減したい」という声も多く挙げられている。この点に関して、ローコードプラットフォームを導入することで、状況が改善できるものと考える。
 第一に、建設業は特に現場数も多いため、ローコードプラットフォームを導入すれば各現場の特性にあったアプリケーションを迅速に開発することができるからである。現場ごとにタブレット端末等からアプリケーションを起動させ入力をすれば、事務所に戻って入力作業を行う二重入力の無駄・手間が削減できることが期待される。
 第二に、情報システム部門を介さずに、各現場主導でスピーディーにアプリケーションの開発・運用保守を行うことができるからである。従来は、各企業の情報システム部門が主導となり、基幹システムの開発から運用保守まで一元的に管理する企業が多かった。各現場でシステムの問い合わせがあれば、都度、情報システム部門に対応を依頼しなければならず業務ロスにつながっていた。ローコードプラットフォームについて現場側である程度アプリケーションの開発から運用保守ができることになれば、スピード感を持って運用保守ができるものと考えられる。また、そうすることができれば、情報システム部としては、より上流フェーズのIT企画等に専念できるメリットもある。ただし、全てを現場任せにしてしまうと収集がつかなくなるという側面があるので、最低限ローコードプラットフォームの使い方等の教育面や各種インフラ・セキュリティ周りについては情報システム部が取りまとめ役となり統制を効かせることが必要と考える。

■おわりに
 このように、コロナ後もリモートワークは続き、ローコードプラットフォームの導入も進むことが予想される。ただし、ローコードプラットフォームが、「簡単に開発できるから導入する」、あるいは「アプリケーションなので便利そうなので導入する」ことは必ずしも効果的な業務改善につながることにはならないと考える。
 特に、先述した建設業の例に沿って述べるならば、業務の無理・無駄を整理した後でローコードプラットフォームを導入する前に取り組まなければならないこととして、①現場におけるIT人材の確保・育成、②組織としてのIT体制の整備が挙げられる。①については、現場の高齢化が課題になっている建設業では、IT端末の操作自体難しい場合が多いので、ローコードプラットフォーム導入に際し現場を束ねるリーダー人材を確保・育成することが必要である。②については、情報システム部門と各現場との役割の棲み分けを組織として整備してから、ローコードプラットフォームを導入する必要がある。そうでなくては、現場に不要な混乱を生むことになり、業務に影響を及ぼすことになりかねない。
 コロナ禍という不透明な状況の中で、ここ1年程度は働き方を筆頭に私たちを取り巻く環境も劇的に変わった。苦しい局面を迎えている企業も多くあることは各報道機関で発表されている通りであるが、その中でも時代の流れに沿うような形でローコードプラットフォームを含めた各種システム導入を進める必要があると思われる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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