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多店舗展開企業におけるウィズコロナ/アフターコロナ時代の人員配置モデルの考え方

2021年04月07日 成瀬忠


1.背景
 多店舗展開企業においては、数年前から、人材不足の深刻化や働き方改革への対応といった店舗運営のあり方の見直しが迫られるような環境の変化が生じてきた。これらに加え、昨年からはコロナ禍対応が必要になり、店舗運営手法のあり方にも影響が生じている。
 従前からの環境変化の主な要素としては、第一に、人材不足の深刻化が挙げられる。労働人口の縮小から店舗業務を支える人材が不足しており、特に、店舗の労働力として高割合のパート・アルバイトの採用が年々困難になってきている。第二に、人件費単価の上昇が挙げられる。人材獲得競争が激化する環境で人件費単価が上昇傾向にある。また、最低賃金の引き上げなどの政策動向を踏まえると、今後も人件費単価の上昇圧力は続く見通しといえる。
 コロナ禍での環境変化の主な要素としては、第一に、営業方法に関する制限が挙げられる。営業時間の短縮要請は、店舗運営にとって大きな負担となっているのは言うまでもない。また、店舗の業種・業態によっては入場数の上限設定や商品ラインナップの変更も余儀なくされており、来客数や売り上げに多大な影響を与えている。第二に、店舗での感染症予防対策対応が挙げられる。これによって、新たな業務が発生し、店舗における業務量構成や人員配置方法を見直さざるを得なくなったケースも多い。
 これらの環境変化によって、店舗における収益構造・コスト構造に変化が生じており、安定的に利益を生み出すための店舗運営手法を改めて考えることが必要になっている。

2.問題認識
 ここでは、従前からの環境変化への対応と、ウィズコロナ/アフターコロナへの対応の2面から店舗運営における問題認識を論じる。
 従前からの環境変化への対応として、マンパワー不足による営業縮小や、人件費の過度な上昇を抑制するためには、店舗運営の負荷を減らしていく取り組みが欠かせない。そのためには、業務改革による店舗業務のスリム化を実現し、従来よりも少ない人員で店舗を運営することが必要だ。
 一方で、ウィズコロナ/アフターコロナへの対応として、コロナ禍で店舗の業務構造(内容と業務量構成)が変化するとともに、来客数や売上の動向にも変化が生じていることを考慮すると、新たな業務も組み込んだ店舗運営を前提として、新業務に即した合理的な人員配置マネジメントが求められる。多店舗展開企業の人員配置マネジメントに関しては、全社統一的な管理基準に沿った運営が有効と思われるが、必ずしもできていない企業も存在する。そのような企業では、例えば以下のような問題が発生していると思われる。
●対前年比の売り上げ増減に応じて人件費の調整を行っているが、全社としての管理基準が定まっていないので、正社員の負荷が過剰(長時間残業等)な店舗が発生している。
●各店舗での顧客動向や店舗特性に応じた日々の投入時間の基準や管理手法にばらつきがあり、店舗運営体制の見直し余地がある。
 以上で述べてきた問題を解決するには、業務のあるべき姿を具体化した上で、標準的な管理基準に基づき配属人数の決定や投入時間管理を行う仕組み(=人員配置モデル)を整備しておくことが肝要だ。以降では、人員配置モデル策定のアプローチを紹介する。

3.人員配置モデル策定のアプローチ
 店舗業務のスリム化とウィズコロナ/アフターコロナへの対応のための人員配置モデル策定に取り組むステップは、大きく次の3つに分けることができる。
  (1)業務の棚卸し(コロナ禍対応で新たに発生した業務と増加した業務の特定を含む)
  (2)業務のあるべき姿の具体化
  (3)人員配置モデルの策定

(1)業務の棚卸し
 業務の棚卸しの実施目的は、現状の店舗業務の実態を把握し、課題を明確にすることだ。効率的かつ効果的に業務の棚卸しを行うには、店舗のタイプ分けと業務の体系化がポイントだ。
 店舗によって、業務内容が異なるだけでなく、同じ業務でも注力度が異なる場合には、打ち手の内容や優先順位が異なることもあり得る。しかし、全店舗を調査して店舗ごとの違いを把握するのは非効率かつ困難なので、店舗をタイプ分けし、タイプごとの業務内容や業務量構成の特徴を把握することを勧めたい。タイプ分けの切り口は、一意的に汎用的な指標があるわけではなく、事業の特徴・特性を踏まえて考える必要がある。切り口の例としては、以下のようなものが挙げられる。こういった切り口を吟味して洗い出し、選択あるいは組み合わせると良い。
 ●店舗ポートフォリオ(旗艦店、成長途上店、コスト削減重視店等)
●物理的構造(フロア数、売場の計上等)
●特命ミッション有無(施策施策店舗等)
●旧体制(統合前の会社母体等)
 タイプ分けができたら、タイプ別に、運営効率が良い店舗と悪い店舗の現状を比較し問題点を抽出しておくことも有効だ。比較店舗を抽出する際には、比較のための指標を設定し、定量的に運営効率を評価すると良い。例えば、来店者1人当たり業務量、来店者1人当たり人件費、対売上高人件費率等の指標を用いる。
 次に、店舗に存在する様々な業務を体系化しておく。局所的・場当たり的ではなく、俯瞰的な視点でスリム化を検討できるようになるので、体系化しておくことは非常に重要だ。コロナ禍で一時的に店舗の負荷が著しく増大しているような場合には、コロナ禍による新規業務のみに注目してしまいがちだが、従前からある業務も含めて体系化する。その上で、新規業務と既存業務の類似性や、業務別の全体に占める割合を正しく把握し、打ち手を検討できるようにしておくことが重要だ。新規業務に対する問題認識が大きい場合でも、コロナ禍対応で新たに発生した業務や増加した業務が、本当に負荷が高くなっているのかを既存業務との比較で定量的に検証しておきたい。業務の体系化にあたっては、下図のように、事業別(あるいは販売方法や商品等の分類別)に業務プロセスの流れに沿って業務を整理するとともに、事業間の類似業務を同じ粒度で整理することで、業務全体を俯瞰的に把握できる。これによって、類似業務のスリム化策をまとめて検討しやすくなる。また、打ち手や優先度を検討するために、各業務の担当者や業務量(時間×頻度)も併せて整理し、業務負荷の度合いも把握しておくことも必要だ。



 以上に留意して棚卸しを行い、店舗で行われている業務の一覧と業務量(時間×頻度)、各業務で発生している問題点とその要因、解決課題が明らかになっていれば、次のステップに進む。

(2)業務のあるべき姿の具体化
 あるべき姿を具体化する目的は、現行業務の課題を解決するための施策を具体化し、人員配置モデルの前提となる新業務を明らかにすることだ。店舗業務のスリム化とウィズコロナ/アフターコロナへの対応を両立するには、現状ベースではなく、新業務をデザインし、それをベースに人員配置モデルを策定しなければならない。あるべき姿の具体化にあたっては、以下の実施手順に沿って、店舗業務を仕分けしていく。
①まず、方法を変えれば店舗で実施しなくてもよい業務を徹底的に探す
 ⇒廃止・縮小、自動化、本部や外注先への移管等を検討
②次に、店舗に残る業務の量を減らす、または難易度を下げる方法を検討する
 ⇒簡素化、標準化等を検討
 スリム化策と対象業務が決まったら、投資対効果や難易度などを踏まえて、スリム化候補の優先順位付けを行い、スリム化後の新業務の業務分担や実施手順・方法などを詳細化する。この際、業務フロー、業務手順書など、文書化にも取り組んでおくと、施策実行段階で店舗や関係部署への周知にも活用できる。
 以上に留意して検討を行い、業務別のスリム化施策、新業務の実施手順・方法、各施策の投資対効果見込みと優先順位が明らかになっていれば、次のステップに進む。

(3)人員配置モデルの策定
 人員配置モデルの策定の目的は、「2. 問題認識」の最後でも触れたとおり、標準的な管理基準に基づき配属人数の決定や投入時間管理を行う仕組みを整備することだ。これを活用して、店舗業務のスリム化とウィズコロナ/アフターコロナへの対応を両立した新店舗業務に即した人員配置の最適化を図る。
 人員配置モデルを策定するにあたっては、以下の三つのポイントを考慮して取り組み、モデルの実効性および実用性の確保を図ることが重要だ。
①業務量に影響を与える要素
②店舗別の特性
③業務の特性と担い手
 一点目のポイントは、店舗に残る業務の量に影響を与える要素を特定することだ。当該要素と投入時間との関係を分析し、要員数等の標準値の判断基準として利用する。ここでいう要素とは、例えば、来店者数、売上高、取り扱い商品数、在庫数、売場面積、所属人数等が考えられる。自社の業種・業態に即して最適な要素を選択あるいは組み合わせることが重要だが、人員配置モデルを極力シンプルにし円滑な導入・定着化を図るには、選択する要素をなるべく少なくすることが望ましい。
 二点目のポイントは、店舗タイプごとの特性に適合したモデルを策定することだ。業務の棚卸しの際に検討した店舗タイプ分けの考え方を踏まえ、各タイプの特性に応じて、要員数等の標準値に対する増減を行うことで、より適正な配置が可能となる。この考え方を取り入れることで、一点目で挙げた要素を数多く選ばなくても補正が可能となる。
 三点目のポイントは、店舗に残る業務に対し、業務特性に応じて適当な担い手を明らかにした上で、人員構成を含めて配置モデルを具体化することだ。業務特性による分類には、例えば、以下のような切り口を設定し、組み合わせることが考えられる。
●マネジメント系業務、オペレーション系業務
⇒マネジメント系業務:正社員中心
⇒オペレーション系業務:パート・アルバイト中心
●難易度、重量度
⇒難易度、重量度高:上位職中心
⇒難易度、重量度低:下位職中心
 担い手を意識した人員配置モデルを検討することが重要なのは、一般的に、店舗に配置する正社員(常勤者)とパート・アルバイト(非常勤者)で、要員数の算定の考え方が異なるからだ。正社員は、勤務時間も人件費も固定的なので、正社員にしかできない業務量をこなすのに何人必要かを考えることになる。それに、その店舗の戦略的活動に何人分投資するかという戦略的な視点を加えて配置モデルを具体化する。一方で、パート・アルバイトは、来店数等の業務量に影響を与える要素を適切に見極め、業務量と要員数を日別に推定できるモデルを作ることが有効だ。

4.まとめ
 ここまで、人員配置モデルを策定するまでのアプローチを紹介してきた。人員配置モデルの策定にあたっては、現状の配置の考え方を見直すことから始めるのではなく、業務の棚卸しを行い、現状の店舗業務の課題と解決策を具体化し、人員配置モデルの前提となる新業務の姿を明らかにしておくことが重要だ。その上で、①業務量に影響を与える要素、②店舗別の特性、③業務の特性と担い手の三つのポイントを考慮して人員配置モデルを検討することで、モデルの実効性および実用性を確保できる。
 このように策定された人員配置モデルを活用することで、従前からの環境変化への対応と、ウィズコロナ/アフターコロナへの対応の両面から適正化された人員配置を行うことが可能になり、人件費コントロールの最適化にも寄与するものと思われる。また、モデルを定期的に評価し見直していくことで、今後も環境変化が発生した場合に、モデルを改良し最適な配置を図ることも可能なので、一度モデルを策定して運用を続けるだけでなく、継続的なモニタリングにも取り組むことも重要だ。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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